華出井 葵(12)と願いの井戸 52
問われた甚八は、苦笑いを浮かべかけて留まった。
人間に擬態とはいえ、9年間過ごした京護の父親を、葵の父親が殺した。
京護を父親の死体の傍から母親共々連れ去ったのに加担し、実験体にしたのは、甚八の父親だ。
事の終焉に安堵したのは、昨夜。
甚八はその時、京護を慰めたのだ。
死んでくれてよかったと、君は思って良い。
ミヨや霧子の印象によって、実感したのだとしたら、甚八の慰めは実ったようなものだ。
目の前で、己の父親が死んでくれて良かったと思われた事を、突きつけられた。
苦笑いの意味は、感傷と思った。親子として良い思い出はなくとも、二度と会えない人への郷愁だろうと。
いいや、違う。甚八は、否定出来る。
否定出来た事を受け入れられた事に、苦笑いを浮かべかけたのだ。
だから、僅かにある胸の痛みは、些細な物。
甚八は、二度目は躊躇わずに、頬をだらしなく緩める。
「連君で分からないなら、僕はもっと分からないよ」
へらへらと笑い、慰めの言葉に嘘は無かった事を噛みしめる。
甚八の笑みに、京護は訝しい顔をした。
ああ、気づかれたくないな。笑う深みを増させる。
あの日起きた現場で回収された遺体のうち、DNA鑑定をした結果は、あと数日で分かる。
甚八に、父親からの愛情を感じた思い出は無い。
枕詞では必ず、円花の跡継ぎだから。
会話の最後には、円花家当主の息子だから。
その意味を昨夜、思い知らされた。
京護の家庭環境に歪な部分はあれど、愛情を受けて育ったのが見える。
だから、悪人のまま死んでてくれ。
甚八は父親を悪人と吐き捨てた息子として、円花を継ぐと決めている。
甚八の願いに、反応したのは影だった。




