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華出井 葵(12)と願いの井戸 48

京護の詰まった声から、呼び方に抵抗があるものの、対人としての苦手さは見えなかった。

 これから一緒に住む相手への印象が悪くないのは、安心できる。

 そして、自分が見ていない間に何かあったのかと、甚八は気になった。

「連君、ご隠居様たちと」

 なにか話したのかと聞く前に、甚八と京護は、第三者に呼び止められた。

「連様、円花医師」

「は、はいっ」

「…………はい」

 京護はどもって返事をし、甚八は溜息を隠して返した。

 振り返ると、艻月霧子だけが立っていた。

「奥様がお待ちです」

 二人が、はいと頷くより先に、霧子は更に口を開く。

 霧子の背後にある客室ホールの両扉は、どちらも閉められていた。

「連様」

「は、あの」

「葵様より、ご忠告を受けておられるかと思われます。努々お忘れなきよう、お願い致します」

 なんの話だろうと二人が口をポカンとしている合間に、京護の足元から影が目を開いた。

「あっ」

 目は瞬きで口に変わり、柳が揺れるように影を躍らせて京護の足に絡み着く。

 実際、柳のような葉を足に絡みつきながら茂らせ、その葉の一枚一枚全てに、目なり口なりが浮かぶ。


【おまえ ヘン おまえ ナニ しる】


「お父さん、出て来ちゃダメっ」

 甚八は、小声で声を荒げる器用な京護の後ろに立ち、様子を伺う事にした。

 影の攻撃性は無効化されている。それを知っている甚八は、静観しながら思考する。

 自分の名が呼ばれなかったのは、ピザの一件か、ただ同じ分家という理由と察している。

 京護は、どんな立場であれ葵の客人だ。敬称からも、艻月霧子に取っての優先順位は明白。

 問題は、忠告という言葉に甚八だけでなく、京護も分かっていなかったのだ。

 思い当たるのは一つだけ。

「連君、もしかしたらご隠居様の事かもしれない」

「ご隠居様の事って」

 背後の甚八、足元の影、正面の霧子と、京護はせわしなく視線を動かす。

 甚八は、尚も思い当たらない京護の、頭の上超しに霧子を見据えた。

「ご隠居様の旦那様。つまり先々代ご当主様の遺言により、人には言えない本家の事情をご隠居様は何も知らない事。ですか」

 驚いたのは京護だけで、影の口はカサカサと、葉の揺れるような笑い声の合唱をする。

 霧子は沈黙を保ち、甚八を見る。

「生憎、葵様は、ご存じない事だけしかおっしゃっていません。

 僕らが秘密を言ったら、どうなりますか。もしくは、ソレが暴れたら。トリガーを持っているのでしょう、ご隠居様は」

 霧子は目を伏せ、京護の足に絡まる影を見てから、甚八と京護の二人を視界に入れる。

 明らかに客室ホールから聞こえる話し声を気にしている彼女は、それでもゆっくりとした所作で、答えた。

「既にご承知の通り、奥様はお美しい方です」

 それだけを言って、また目を閉じた。

 続きは無いらしい。

 京護は目を丸くし、甚八は「はあ」とだけ返した。

 影は、霧子だけを観察している。

 京護は困惑のまま、霧子、影、甚八の順で視線を移動させる。

 AIでも今のは分からないよ、と言いたいのを堪えて、甚八は更に尋ねる。

「失礼。ご隠居様がお美しい事と、葵様のご忠告と、コレの関連をご教授ください」

「円花医師は、知りたがりのやんちゃ坊主の割に察しが悪いですね」

 なんで僕、煽られたんだろう。

 甚八の心情を空気で察した京護は、振り返るのをやめておいた。

 代わりに、小さく手を挙げた。

「おれも知りたいです。あの、お願いします」

 甚八は胸中、ナイスアシストと京護にガッツポーズした。

 霧子は再度、背後の扉の気配を気にしながら、頷く。

「それでは、今は手短に申します」

 奥様をお待たせするのは心が痛みます、と付け加えられた。

次回更新は5/10 7:00

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