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華出井 葵(12)と願いの井戸 45

 立ち止まった葵は、再び商品を見渡す。

「どういう状況って、見たままだよ? 欲しい物を選ぶだけ」

「全然、分からないっ あとお願いって何? いつの話?」

「朝。僕と、ひいおばあ様のサプライズ~」

 びっくり大成功と、言わんばかりの笑顔だった。

「レジは? お金は? 選ぶって、店に行くとかネットじゃないの?」

「そういうのもあるけど、ひいおばあ様は呼ぶから」

「呼ぶ?」

 話が嚙み合わないと悟った京護は、くるりと甚八の居る方を振り向く。

 無意識に葵の手を掴み、それこそ先の影のように葵を引っ張りながら、商品を眺めていた甚八に近づいた。

「先生教えてっ」

 甚八は、二人を見下ろす。

 手を握られた葵は、良い笑顔だ。放っておこう。

 京護の必死さに、甚八は、ひそりと溜息をついた。

「何故だろうね。願った覚えはないのに、未来視の能力でもついたのかな。いつかまた見そうな光景だ」

「何言ってるか分からない先生のことより、おれどうしたら良いか教えてよ」

 そういえば(むらじ)君は一人っ子だった。葵とはまた別の強引さから、連家の教育風景を想像する。

「ぼくは検索エンジンでもAIでもないから、とりあえず呼ぶみたいな癖つけないでね」

 無意味と分かっている前振りをして、甚八は答えた。

「連君の疑問だけど、君はあの中から着たい服を選ぶ以外の事は、気にしなくて良い」

「葵君と同じじゃない答えが欲しい」

「だから僕はAIじゃないってば。ええと、レジは無い。ここは個人の邸宅だから。

 お金は心配しなくていい。恐らくは、ご隠居様持ちだろう」

 話題の中心になったミヨは、3人分の視線も気にせず花のように綻んだ。

「ええ、私のお財布よ。

 アオちゃん以外の、子供服も買えるだなんて嬉しいわ。

 お洋服以外もあるの、好きなだけ選んで頂戴な」

 にこにこ、ふふふ、にこにこ、ふふふ。

 こんな擬音が、ミヨの回りで舞う花と一緒に浮かぶ。

 ミヨに返す言葉が出て来ない京護に、甚八は助け舟を出した。

「連君、今までどこで服とか買ってたの」

「スーパーの2階。近くにあった古着屋とか、後はスマホのアプリ」

「それがここに丸ごと物理で来ただけだよ。ね、同じ。

 外商って言って、来てもらう事が出来る人たちがいる。ご隠居様がそれなだけだから」

 それでも理解しがたい京護に、葵は掴まれた右手をそのまま、左手で一角を指さす。

「京護。ぼくが好きなのここら辺だから、適当に選んでおいて」

 ひいおばあ様のためだと思って。

 秘密の耳打ちをする葵に、言葉そのものより距離の違和感が気になった。

 なんだか右手が暖かいなと俯いて、葵の右手と繋がっている事に驚いた。驚いたまま、葵の手を離す。

「あ、ごめんっ」

「良いよ。ねえねえ、ぼく、京護と共有できるサイズとか、お揃いも欲しいな。

 ぼく、けいこに行くけど、ご飯の前には戻るね」

 スルリと逃げるネコのように、扉に向かわれてしまう。

 寂しさと不安をない交ぜに、京護は甚八を見上げた。

 子供って正直すぎると、甚八は笑いをこらえた。

「その目、僕にここに居ろって言ってる?」

 京護は無言で頷いた。そのまま甚八を逃がすまいと、掴みそうな必死さが伝わる。

「言語無くしちゃってるなあ」

 一方。ミヨの前なので走らず移動していた葵が、外商担当の男性と話していたミヨに声をかける。

「ひいおばあ様、ばあちゃん、行ってきます」

 笑顔で手を振って廊下に出る葵に、ミヨも手を小さく振った。

「頑張ってね、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいませ、葵様」

 世話係の霧子が、頭を軽く下げる。

 あっさり見えなくなる葵に、甚八は、一寸考えてから同じ方向へ足を向けた。

 すると、くいっと後ろから引っ張られる。なにごとかと思えば、京護に袖を掴まれていた。

「連君、先に服を選んでて。…………うん、逃げないから手を一瞬だけ離して欲しい」

 京護は視線をキョロキョロさせてから、ゆっくり手を離した。

「ありがとう。とりあえず適当に見ていたら良いよ。誰も邪魔しないから」

次回更新5/7 7:00設定済

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