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華出井 葵(12)と願いの井戸 43

「ひいおばあ様、おかえりなさい」

「アオちゃん」

 姿は京護からは見えないが、穏やかな声だった。

「お出迎え出来なくてごめんなさい」

「ふふ、ただいま。

 こうして、元気な姿を見せてくれるだけで十分よ」

 葵君てアオちゃんて呼ばれてるんだと、京護は二人の他愛ない会話を壁越しに聞きながら思う。

「足、大丈夫?」

「ええ、もう歩けるわ。

 霧子さんが大げさなのよ。

 心配してくれているのは分かるのよ。ふふ

「奥様のご健康を日々願うわたくしとて、歩くのがリハビリにも最適なのは、わたくしも承知しております。

 わざわざ暑いさなかのお時間である必要性を、感じないだけでございます」

「うん、暑いよね。ぼく、ばあちゃんの味方する」

「ありがとうございます葵様」

「あら、負けちゃったわ」

 年齢のせいもあるのか、ひいおばあ様と呼ばれる相手の話し方は、すごくゆっくりだ。時折、単語で区切ってもいる。

 もう一人の、ばあちゃんと呼ばれる方の印象は、2階で聞いたより変わった。下に降りるように呼んだ先の時より、今の方が話し方が柔らかい。

 声に集中していると、あえて中に入らなかった葵が、部屋に入る前に京護を見た。

 残暑の日中の光が、相手のいる部屋の窓から差し込んでいるのか。廊下との光源の差により、葵の眼差しを強く感じる。

 一瞬、なにを言われるのかとドキリとしたが、葵は相変わらず楽し気に、小声で設定の再確認をしただけだった。

「京護。僕とは他人じゃないからね」

「わ、分かった」

 京護が頷いたのを見てから、扉を全開にする。

「ひいおばあ様。ぼくが言ってた、これからここで一緒に住む友達だよ。いとこの京護っ」

 扉が開ききり、京護の視界にも部屋と、部屋にいる住人が確認できた。

 正方形に近い室内で、扉から奥には暖炉と書斎机。光源を差し込んでいた窓は、横にはめ込まれてある。反対の壁側に、木製の本棚が机と同じ色調で並んでいた。

 本棚の横には一脚だけ、一人用のソファも置いてある。

 床板には絨毯が敷かれてあり、そこに、女性が二人。

 京護は推察する。

 ひいおばあ様と葵が呼ぶ相手は、書斎の中央に、車椅子に座っている人だろう。

 車椅子の横で立つのが、葵がばあちゃんと呼ぶ女性だろうか。

 二人で一緒に入り、続いて甚八が部屋に入って扉を閉める。

 車椅子の女性から、京護に話しかけた。

「円花さんとは、先ほど、ご挨拶致しましたわね。

 初めまして京護君。わたくしの名前は、華出井ミヨですの。

 こちらは、わたくしのお世話をしてくださっている、艻月霧子さん」

「艻月霧子と申します」

 華出井ミヨは濃紺のワンピースに身を包み、僅かに背を丸めているものの、綺麗な姿勢で迎えた。

 上品な口調で紹介された世話係の女性は、グレーが貴重の装いだ。

 二人は、外の暑さを忘れるような、木陰のような空気を持っていた。

 今まで会った事のないタイプに、京護は慌てて慣れない仕草でお辞儀をする。

「む、連京護、ですっ」

 言葉を詰まらせても、あからさまに動揺していても、二人は気にしていない。

 ミヨは顔を上げた京護と、目を合わせて無邪気に笑った。

「これからよろしくね、歓迎するわ。

 キョウちゃんて、呼んでも良いかしら」

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