華出井 葵(12)と願いの井戸 40
自由時間と言われた京護は、ふと、通っていた小学校を思い出す。
ある校外学習の時だ。
高学年になったら修学旅行があること。中学生になると場所が遠くなるだけで、同じような旅行がある事。
その時にある自由時間でなにをしようと、友達と話していた。
知らない場所で好きな事していいのってドキドキするねと、会話したのだ。
場違いにも京護は、会話や声は思い出せたのに、友達の顔は思い出せなかった。
悲しさと同時に、目の前の葵が言った、自由時間という言葉に胸が高揚した。
「好きな事して良いんだ」
思ったまま言った京護に、葵は京護の横に並んで座った。
「自由時間だもん」
「うん」
「でも、自由時間て終わっちゃうし、なんでもはしちゃダメなんだって。
6月に修学旅行に行った時、先生言ってた」
「葵君、修学旅行行ったの? いいなぁ」
「ぼくは京護と行きたかった。だから、今度は二人で修学旅行に行こうね」
葵は船に乗りたいとも言っていた。
葵とならきっと楽しいなと京護は、はたと考える。
「引率の先生って、先生? それともパーティーメンバーだから別の先生になるのかな」
「まとめて甚八で良いじゃん。どっちもできるよ」
簡単に想像がつき、思わず京護と葵は同時に吹き出した。
そして、その甚八を放って来たのも、二人は思い出した。
「甚八、うまく怒られてるかな。
京護、今のおっさんの可動域てどのくらいか分かる?」
再び立ち上がる葵に、京護もその場で立ち、両腕を横に広げる。
「大体、これぐらいかな」
影が京護の床から二本の腕を生やし、京護の手に捕まるように絡まる。
「おれを使わせたくないって願った」
影は京護の肩や首にも、巻きつく。
京護は、その影のされるままだが警戒も怯えもない。
影が京護の頬を叩く。音は無いが、不満そうな動きには見えない。
事実、風を切った音に重さは無い。
「おっさん。制限すら楽しみだしたよ、もう」
「葵君にやられた事は、不満そうだったよ」
「ゲーム取り上げられた子供だもんね。あの時のおっさん、マジでダサかった。
オレツエェからのこてんぱん。ぼくの天才っぷり、京護にも見て欲しかったなあ」
京護が影に主導権の全てを使われていたのを、葵が解除した。
どのみち見られない状態だ。
どこまで本気で言っているんだろうと、京護は困りながら考える。
どうやって解除したのか。
なにより、自由をくれた人なのに恩人なのに、自分はそんな葵に怒ってしまった。
葵も、自分を使う側なんじゃないかと、疑った。




