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華出井 葵(12)と願いの井戸 39

 京護に母親のことを聞いていいのだろうかと考えていると、外から車の音がした。

 屋敷の裏側にある、駐車スペースだ。 

「誰か来たようですね」

「多分、ひいおばあ様だ。え、もう帰って来る時間? けいこに行かなきゃ」


【いくな イクナ ひみつ ヒミツ いえ イエ】


「え、どうしよう。お父さんの事」

 甚八の疑問に葵が慌てて立ち上がり、京護はテーブルで歌っていた影を見る。

 二人同時に喋った為、互いの発言に対して、二人同時に動きが止まった。

「稽古? お父さん、秘密って?」


【いくな イクナ ひみつ ヒミツ いえ イエ】


「そっちも忘れてた。おっさん、忘れてても良いのに」

 葵は慌てて片手でパズルを掴み、もう片手で京護の手を握った。

「甚八。ばあちゃん来たら怒られて。時間かせいでおいて。

 ひいおばあ様にはてーねーにねっ」

「丁寧は承知しました。怒られてとは?」

 ダイニングルームの扉に駆けて行く背中に、後片付けをしながら甚八が尋ねる。ドアノブを握るためにパズルをポケットに入れてから、葵が甚八へ振り返った。

「ばあちゃん。ぼくにピザみたいなやつ食べさせるの嫌がってるから、これ見たら怒る。においでバレる。

 でもぼく食べたかったし、大人同士がんばってね。

 こっちの事は後で教えてあげるからーっ」

「葵君? あの、先生っ」

 とても良い笑顔でしたと、後で甚八が嫌味を言いたくなる笑みで、葵は扉を開けて出て行った。

「ジャンクフードの人身御供にされていたとは」

 溜息をつきつつ、片付けは早い。食べ物に関する証拠隠滅に慣れている手つきだ。

 一方で葵は、京護を引っ張ったまま二階に駆けあがり、一直線に隠し部屋に向かう。

 目的地が分かった京護は、自主的に同じ場所へ向かう。

「葵君、おれが開けるよ」

「うん」


【イエ まだ シラヌ がき ひみつ】


 影は、移動中は京護のくるぶしに巻きついて、歌っている。


【イエ まつた マツタ いえ イエ ひみつ】


 部屋に入るなり、葵は扉を閉めた京護の足元で笑う影に答える。

「おっさんが病院で探ってたヤツ。病院で守ってるから、あきらめなよ。どうせやる事、あの時と同じでしょ。

 代わりにもう一個、教えてあげる」

 葵が床にしゃがみ込む。そして内緒の話をするように、声を潜めた。

「おっさんが井戸で見逃した方。艻月が外側を見つけててさ、ずっと見張ってる。

 おっさんがアレに何かしたら、本家にバレる」

 葵の言葉に、風を切る音が軽快に一つ鳴る。

 影が、葵と京護だけには言語に聞こえる音を出したのだ。

 葵の眉が、あからさまに歪む。

「はあ? おっさんどうなっても良いよ。

 おっさんが目立つと、ぼくがおっさん消したと思い込んで浮かれてる一部の本家が、面倒くさい事してくるの。

 やるなら京護巻き込まないように、やれっての」

 二人の会話を聞いていた京護も、葵にならって床にしゃがみ込む。視線の先は、葵だ。

「葵君、おれは良いよ」

「京護ぉ」

「おれも、その人に用があるんだ。バレたらごめん」

 思いがけない言葉に、葵の口が一度閉じられる。それもすぐに、笑みに変わった。

「居る場所、分かるんだ」

 葵の含みを持たせる顔に、京護は首を傾げながらも正直に答える。

「おれは分からないけど、お父さんが」

「え、京護分からない?」

 葵が驚いて近づくので、最後まで言えなかった。

「う、うん。なんで」

 京護のなんで、と聞いたと同時に、葵が京護の懐に入った。

 くんくんと、まるで犬が鼻を寄せて匂いを嗅ぐ仕草で、京護の体臭を嗅ぐ。

 不意の行動が突飛すぎて、京護は慌てて背後に逃げた。尻もちをつく京護に、葵は目を丸くする。

「な、ななな、なに? なんでかいだの⁈」

「分からないんだ」

 なにが? と聞き返す前に、葵が立ち上がった。

「その話は、ぼくが帰ってからね」

 葵は人差し指を、自身の唇に当てた。

「気になるでしょ。だから、ちゃんと、ここに居てぼくが帰るの待ってて」

 でも、と続ける。

「それまではぼくたち、自由時間ね」

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