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華出井 葵(12)と願いの井戸 37

 分家である甚八は、直接の上司が本家の葵になっている。

 葵の見た目や年齢など関係なく、葵の意思がなにより優先される。

 甚八は、円花家を継いだ時に伝えられていた。

 葵も知っているが、情報を等価にして筋は通した。

 そんな葵と甚八が最初に会ったのは、当人ではなく葵のカルテだった。

 カルテは、当人よりも当人の事を教えてくれる。

「まず。…………僕が葵様の主治医になる前に、ぼくの父が、葵様の主治医だったんだ」

 甚八の言葉に反応したのは、京護だった。

「先生の、…………お父さん」

 京護の父親だった者を殺した、今は亡き本家の当主に、常に傍にいた男。

 京護を5年間、怪異の子供として実験体にしてきた男だ。

 京護が緊張したのを見た甚八は、無言で頷いてから、あえてハッキリ告げる。

「ぼくの父が葵様の検査を担当したんだ。

 葵様が、お生まれになってからの全てのね。

 結果は至って健康、異常なし。子供だからね、急な熱が出たり吐いたりとか、一般的な症状は勿論あったよ。

 落ちた先に関する事でいえば、あらゆる数値やレントゲン検査…………子供には使用しない筈のCTも、何もおかしい所はないし、何も映っていなかった」

 オールナッシングと、テーブルから少し浮かせた手で、何かを撫でる仕草をする。

 そして視線を、京護だけに向けた。

「それは君もだよ、連君」

 ピクリと、肩を震わせた京護は、甚八から視線を逸らさずにいた。

「君が僕の勤める病院に運ばれたのは、今から10日前。もう11日かな。

 君の検査結果も同じだ。CTは撮ってないけど」

「先生…………10日て、どういう事?」

 甚八の言葉に被さる形で、京護が質問する。

 実際、少し前のめりになっていた。

「今、何日なの? 昨日起きたと思ってたのに」

 日付を確認する物が病室になかったのもあるが、教護の感覚では一昨日だと思っていたのだ。

 井戸に落とされたのも、落とされた先で父親だったモノが自分を使えるようにしたのも。

 そうして使った体で、生きて戸籍に存在する本家と分家の者のうち、半分の人間を殺したのも。

 一昨日ではなく、11日前の惨事。

「今日は、8月25日だよ。連君が病院で意識を取り戻したのは3日前」

 甚八は、淡々と言葉を並べる。

 11日前。本家と一部の分家しか入れない、あの最上階へ京護は直通で運ばれた。

 か細い体一つと、箱単位でも二桁だった紙の資料。そして膨大なカルテのデータが閲覧可能な、パスコード付きで。

 それは、京護の方が多かったものの、葵もある日を境に相当数になっている。

「君が受け答えできるようになったのは2日前だけど、覚えてないみたいだね。

 そして最初に反応したのは連君ではなく、今テーブルでパズルの上に腰かけているように見える、ソレだ」

 甚八が眉根を顰めた視線の先で、影は甚八の説明のままの状態でいた。

 テーブルの下からパズルと同程度の大きさだけ通過させ、のっぺらぼうの小人が葵が作ったパズルを椅子代わりに座っている。

 原因の中心である存在に、甚八は溜息が漏れた。

「君の体のどこにも、ソレの存在を示す物は何も出なかった。

 つまりね、連君。

 葵様も君も、見た目だけなら普通の子供なんだ」

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