華出井 葵(12)と願いの井戸 30
甚八の思考が、深みにハマる。
葵の告白に、傍で聞いた京護よりもハマった。
ソファから崩れ落ちた京護に手を伸ばしたまま、けれど届かなかった指の先にいる、葵のセリフが脳内で再生される。
だって、ぼくの中にもあるから。
なにが?
京護は、自分には葵が持つ立体パズルと同じ物があると言った。
エルノー・ルービックが考案した立体パズルは見た目なだけで、内部には葵曰く、宝物が入っている。
宝物とは、井戸の落ちた先にある、歪みを持ちつつも、あらゆる願いを叶える物。
理屈も常識も飛び越えて、願いを叶える物と同じものが、京護が自身の中にあると言い切った。
そして葵も、パズルと同じものを持っていると告げた。自身の、中にと。
本家が分家を従え、今日まで独占してきた富の生成物。
それが、目の前に3つあるという。
「…………は⁈」
だって何も映っていなかったですよ⁈
「だって何も映っていなかったですよ⁈」
心の声のまま、現実でも叫んでしまった。
しまったと、伸ばした手で自身の口元を抑えても後の祭り。
カーペットからまだ起き上がれない京護は、意味が分からず困惑する。
京護の胸元にいるカラスの形を取る影は、京護と葵と、葵が持つパズルを順番に見ている。甚八に興味はないらしい。
一方で葵は、猫の目になって甚八を見上げた。
「ねえ甚八ぃ」
京護の傍を離れず、興味津々なのも隠さず。
葵の声に、甚八はあからさまに肩をびくつかせた。
「だめです。個人情報です。医者の守秘義務があります」
「もう言っちゃってんじゃん。京護に聞かれるのも、ぼくは良いし」
「未成年の事は、保護者の許可がいります」
「ハッ、笑える。ぼくの事は、ぼくが決めるよ」
首を横に振り続ける甚八に、葵が鼻で笑った。
「そういう問題じゃないのが、未成年なんですよ。葵様」
「甚八はぁ、ぼくと会った時にぃ、おじい様の付き人に言われた事ぉ、忘れたのかなぁ」
「葵様が同意すれば良い。だからそういう問題じゃないのがって思ったんですが」
「…………あんまりごねると仲間外れにするよ」
「どういう脅し方なんですか…………」
少しずつ呼吸を落ち着かせている京護は、今度は、そんな葵の態度に困惑する。
「…………葵くん?」
「京護は?」
「え」
くるりと、葵の視線が甚八から京護へ移る。
「ぼくの事は全部、京護に知られて困ることないよ。ぼくの事、知って欲しいもん」
葵が、京護の隣に寝転んで視線を同じにする。
「それでね、同じだけ京護の事知りたいんだ。京護は、ぼくの事知りたくない?」
その聞き方は、ズルいんじゃないかな。
元より、悪感情は無い相手だ。先までの猜疑心が、呆気なく軟化していく。
呼吸を整えながら同時に、京護は奇妙な既視感に見舞われる。
横並びの目線と屈託のない笑顔。なにより、知って欲しいという真っすぐなセリフと感情。
自分は今より前に、見たことがあるのではないか。




