華出井 葵(12)と願いの井戸 92
年齢を指摘され、甚八の顔をじっと見上げる。
「なんだい。僕の顔に、何かついてる?」
「ううん」
「目と鼻と口ぃ」
顎当たりをさする甚八に、京護は首を横に振る。それ以上は、何も言わなかった。
会話を終わらせた京護とは別に、葵は悪ふざけをする。
甚八は、わざとらしく目を丸くさせた。
「葵様もうちの患者みたいな事言うんです、いたっ」
甚八が感想を言い終わる前に、葵が甚八の脛を蹴った。
「痛くしてないじゃん。ていうか、甚八の足固いっ」
「痛くないですけど咄嗟に出るので。あと暴力には言っといた方が良いと思いました」
「なにそれぇ」
京護は、二人はやっぱり仲が良いなと眺めながら、自分との会話は続かなかった事に安堵した。
昨日も、甚八は京護に年齢の事を伝えている。
14才になったばかりだよと。
だが、5年の間に誕生日を言われた事も、祝われた事も無い。
年月の実感は、季節の巡り。そして周囲の大人たちが、京護からデータを取る時だ。
日にちは数字にしか過ぎず、年を取るという感覚も無くなっていた。
学校に行きたいと思った時も、最初は小学校を想像していた。
14才と言われ、やはりピンとは来ない。
京護は自分の手を見る。確かに大きさは9歳の時ではない。
声変わりもしている。
14才らしさが分からない。
そんな事を思っていた京護の横で、ふざけていた二人だったが、霧子のひと声で終わる。
「奥様をお待たせするのは、そこまでです」
「「はい」」
「は、はいっ」
叱られていない京護まで返事をしたので、霧子は二人を見てから溜息をつく。
「連様は今宵の席で主役でございます。お気になさりませぬよう」
霧子の言っている意味が分からず、首をかしげる。
テーブルを見ると、確かに一人分の席に数枚のお皿が並んでいる。
3人分の洋食器に、2人の和食器。和食器の席の一つには、ミヨが座っている。
横並びの上座に座るミヨが、京護に手を振った。
「そうよ。
キョウちゃんの為の、日よ」
「連様の席は、こちらです」
霧子が言うなり、ミヨの向かい合わせの椅子を、見慣れない女性が引いた。
京護は後から知るが、犬荏家のスタッフだ。
座って良いか悩んでいると、背後から甚八が促した。
「そうそう。今夜は連君の歓迎会兼なんだから。君が主役」
「そうそう」
甚八の横で、葵が真似て頷く。
「かんげいかい、けん?」




