華出井 葵(12)と願いの井戸 88
止まっていたのは、思考だけでは無かった。
「京護?」
顔を覗き込む葵の声に、京護は我に返る。
「あ、ごめん」
「えー、なんで謝るの」
謝る京護に笑う、のどかな雰囲気に流されかける。
「じゃなくってっ 言っちゃった? なにを?」
「え? 指輪のこと。そのままは言ってなかったかな、忘れた。
でもさ、僕が分からないわけ無いじゃん」
あっけらかんと答えていく葵に、半場呆然と、思ったままを尋ねる。
「なんで生きてるの」
「僕だから。ついでに、京護だから」
「葵君だからってのはなんだか説得力ある感じするけど、俺だからは分からないし、なんで言っちゃったの」
「えー、京護もでしょ」
言い返された言葉に、京護は口をつぐんだ。
葵に悪気はない。
ミヨに、井戸の事を話そうとする者は死ぬ。
ミヨの指輪が、願いを叶える『宝物』で、亡くなったミヨの夫が作った事。
その夫が、死を願ったから出来た指輪。
これらの事に、影も関わっていない。
京護が限られた情報と勘で、見抜いた。
打ちひしがれた京護は、再び頭を抱えた。
「おれは、……言うつもり無かったんだ。ただ、こう、うっかりそう思うのも駄目だっただけで」
縮こまる京護の背中や後頭部を、影と、しゃがんだままの葵が見下ろす。
葵は影を無視して、床に直接座った。
「でも言いたくならない?
押すなって言われたら、押して良いやつって事だし」
あっけらかんとした自論に、京護は驚いて振り向いた。
京護の視線の先には、好奇心を隠していない笑顔。
影が葵の横で、2手の人差し指を立て、再び葵を指さした。
「おっさん。それな、じゃない」
影は話していないのに、葵は正しく意味を理解する。
二人のやり取りは今更なので、京護は、自身の考え方の再確認に勤しんでいた。
おれが正しくないのだろうかという困惑と、自分なら押さないが、せめぎ合っていた。
だって、押しちゃダメって言われたら、押さないよね?
「押しちゃあ、……駄目だと思う……のに、おれは……もう言い返せないんだ」
「押して良いフラグ回収しただけなのに、なんで落ち込んでるの京護」
【むすこ デカ した】
「おっさん的にグッジョブなら、じゃあムカツクねっ」
なにその主張と、葵を見る気力もない。そんな京護の腕を葵は掴んで、立つように促した。
「ほら、ご飯食べに行こう。
僕、呼びに来たんだ。お腹減った」
「おれ、食欲ないかも」
「だめ。ぼくは京護と食べるの楽しみにしてたの」




