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華出井 葵(12)と願いの井戸 86

 影の説明に、京護は俯いた。

 焦りや、怒り、哀しみなど、どの感情が一番強いかを考える。

 自分の体を乗っとる事で、人の命を刈り取っていたのは、影の行動から知っている。

 その前後で、自身が一度死んでいるのも。

 昨夜。京護は、5年の境遇を思えば、一度死んだ事に思うところはなかった。

 影が京護を使っていた時は、痛みも苦しみも無い時間だった。

 何が起きていたかも知らない。

 今回、既に死んで生き返った後としても、感想は変わらないと気づいた。

 ただ、昨夜より増えた物もある。

「1回死んだって聞いた時、今更だと思った」

 影は京護の言葉を、40の手で聞く。

「痛いのは嫌だし、怖い事も嫌だ。そうじゃないなら良いやって、思うかもって。

 でも、それも違うんだ」

 京護は、膝を抱えて、頭をそこに伏せた。

「それに慣れるのは……普通じゃない。お母さんの言ってた普通じゃない。

 痛くなかったら良いやじゃ駄目だ。

 おれはやっぱり苦しくなくても死にたくないし、お父さんに勝手に使われるのも嫌だ」

 顔を見せない京護を、俯く事で出来た黒から、影が覗き見る。

 話しかける事はしないので、京護から話しかける。

「今のおれって、さっき死んだ後? 呪いが後付けでも確定なんだろ」


【【息子。2つ目に気づいていない】】


 京護の足元で、コトリと音がした。

 沈んでいた気持ちのままでは確認が出来ず、必然的に顔を上げる。

 葵からの預かり物である立体パズルが、影の手によって、1回だけ転がった音だった。

「2つ目って何。それとこれが関係してるの?」


【【息子。生きている理由。

 分からないままお前は願う。願いも形が無いのに、ネガイと名前がある】】


 パズルを転がす手とは別に、別の手が2本、両側に立つ。


【【人間は変だ。面白い。

 見えないのに名前を付けて、分ける。

 願いと呪いは同じ】】


【【クソガキに返す。これも分かった】】


 もう一度、コトリと返す音を立てて、影の手がパズルから離れた。


【【これを持ってるクソガキ分かってる。

 女の付けているアレを、そうした奴も】】


【【息子。見える物に頭を寄せる。

 ワシに制限をかけた方に寄せない】】


【【だから、もう一つの理由も分からない】】


 京護は警戒しながら、パズルを手に取る。

 言われた意味を考えるが、具体的な物ではないので、導き先も分からない。

「もう一つってなんだよ」

 素直に聞くと、京護の予想に反して影が黙った。

 何故沈黙したのか。まさか言い逃げなのかと眉をひそめた。

「お父さん?」


【【息子。死なない理由の、二つ目がある。

 死んでない理由】】


「つまり……おれは、さっき死んでない。

 それには理由があるんだよね。だから、それを聞いてるんだって」


【【分からないか。

 なんて名前だったか、分からない人間のこと】】


 少しの沈黙。影の頭に電球が光ったわけでもないのに、京護には小さな光が見えた。


【ざまあ】


 40手すべての手で、京護を指した。

「違うからっ あと人指すなよっ 前にお母さんにそれで怒られた事あるくせにっ」

「ザマァはおっさんだからだよっ」

 親に煽られた子供が早口で言い返していると、扉から人が入って来た。 

 乱入者が現われたと同時に、京護を覆っていた影が霧散する。

 明瞭になった視界の先には、直に戻ると言われていた少年が居た。

「葵君?」

「ただいまぁっ」

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