華出井 葵(12)と願いの井戸 85
思わず、京護の抵抗が止まる。
影は一つ一つ関節など確かめながら、拘束を増やしていく。
一つの手が、京護の心臓を指した。
【【お前が死なない理由の一つに、お前の願いが使われている】】
風を切る音が、部屋に鳴り響く。
京護にだけは、こう聞こえた。
【【死にたくないと願ったな】】
それは、華出井当主によって、井戸に落とされた時の事。
命の終わりに抗った、懇願。
影にとっては、始まりの願い。
「……死にたくないから、死なないって事?」
【しな ナイ ちがう】
【【お前はワシが使った最初、負荷に負けて死んでいる】】
【おまえ シンダ】
【【ワシが使えるように、命を繋ぎなおした】】
【わし ツナグ おまえ イキタ】
【【いじった】】
影は、あえて誰にでも聞き取れる声と、京護にだけ分かる言語で交互で話した。
両方を理解する京護にとっては、輪唱であり壊れたレコーダーであり、呪いの言霊のごとく、聴覚に響き渡った。
【で キ ない ナイ】
【【何も出来ない。ではない】】
京護の心臓を指した手は、首を指した。
【【お前たちの言う呪いより早く、ワシは息子を繋げられる】】
京護の頭を後ろから掴んだ手を離し、同じ手で頭を撫でる。
【【呪いは、後付け。
死にたくないは、根本。
ワシへの制限は関係ない。ワシが息子を生かす】】
首を指す手は、手の平一杯に、一つ目を見開いた。
【だから シ ない】




