華出井 葵(12)と願いの井戸 78
「葵様と同じなら時代劇ですか?
朝、ご隠居様と一緒に見てると、おっしゃってました」
京護の言葉を皮切りに、甚八が提案し、ミヨはチャンネルを慣れた手つきで操作していく。
大画面のスクリーンには、配信サイトが映し出された。
「アオちゃん、言ってたの?
嬉しいわ」
何回かのボタン音で開いたページは、時代劇専門チャンネル。
「大江戸の方かしら?
それとも、鬼平?」
「こちらですね」
「あら。色々なセリフを、私の前で真似てくれた方ね。
楽しかったわ」
じゃあ、と再生ボタンを押す前にして、ミヨと甚八が経っている京護を向いた。
「ほら、見ようよ。連君」
「キョウちゃん、こっち。
座って頂戴」
笑顔を向けられた方は、全て整えられてから、驚いた。
「え? なんで俺が見たいって分かったの」
独り言のつもりだったらしい。
甚八は、無意識の筈はないと、不思議そうに答えた。
「だって、言っただろ。
葵様が見たやつが知りたいて」
聞こえていたんだ。
恥ずかしさで、頬が一気に熱くなる。
「キョウちゃん、見ましょう」
手招きに誘われるように、京護はミヨに近寄り、間反対のソファに座った。
「……こ、ここで良いから」
ここなら、自分も影も、ミヨへ手は届かない。
ミヨはその距離を気にせず、むしろ同じ場所に座ったことを喜んだ。
「ありがとう。
それじゃあ、見ましょうか
あなたもご自由に、お座りになって」
「恐縮です。それでは、部屋の電気を消しますね」
「ありがとう」
甚八は部屋を暗くしてから、スクリーンを囲うようにある、1人用のソファに座った。
両側にあるが、腰を沈めたのはミヨ側。
そうして、1時間にも満たない時代劇の鑑賞会が始まった。
京護だけは、当人が気にする基準で、穴があったら入りたい気持ちでいた。
ほんの少し前までは、要望など言える環境ではなかった。
あるものを受け入れるしかなかった。
選択など無かった。
ここは現実味がない。
自分は、油断しているのかもしれない。
まるで、夢の中にいるようだ。
俯いた先に出来た自身の影は、何も語らない。




