華出井 葵(12)と願いの井戸 77
葵としたような言葉遣いのやり取りをなぞっている京護に、二人の返答は同じだった。
甚八とミヨは、リアクションは違えど、
「ああ」
「ああ」
と、同じ感嘆詞を使った。先に答えたのは、二人で目配せをしてミヨになる。
「艻月さんはね、華出井のおうちの、警備会社なの。
亡き主人のお嫁さんになった時に、主人が私だけのお世話係よと、ご紹介くださったの。
それが始まりよ」
ミヨが説明した後、甚八が付け加えた。
「つまり、そういう事」
京護は首を傾げた。
「そういう事って?」
「艻月家は警備会社であり、警護会社でもある。
彼女は、先々代の奥方という立場になったご隠居様の、護衛も兼ねていたんだよ」
護衛の字は浮かばなかったが、意味は分かっている。
つまりそういうことというのは、手伝いでいるだけではないから、艻月なのだ。
「ふふ。もう何十年も前だけれど。
霧子さん勇ましくて、素敵で、格好良くて、それはとても、お強かったのよ。
あ、でも、それらは今もだわ」
「確かに彼女は今もお強いですね」
苦笑いを浮かべる甚八に、京護は同意をこめて頷いた。
物理的な強さは分からないが、霧子は背筋の伸びた立ち居振る舞いに、自信が現われている口調をしている。
守るためにいるなら、きっと、良い関係に違いない。
だから二人だけスポットライトを浴びているような、舞台じみた空気なんだ。京護は、そういう意味でも頷いた。
ミヨには、回答に納得した頷きに見えた。
「それじゃあ、お夕飯まで、どうしましょう。
他に、聞きたい事は、あるかしら?
見たいものがあるなら、テレビかあちらで、見ましょうよ」
そう言った視線の先には、大型テレビとルームシアターがあった。
「主人とね、一緒に映画を見るのが好きだったの。
昔は専用の部屋があったのだけれど、移動が大変だからここにしたのよ」
専用の部屋。また部屋が増えたと思いつつ、気になる事だらけでも聞くものが思い浮かばない京護が、ルームシアターをじっと見る。
今、気になるのは、こちらだ。
扉からも近いので、ミヨと甚八は確認するまでもなく、定位置をここに決めた。
「ご隠居様、僕がご隠居様の車椅子を押してもよろしいでしょうか」
「よろしくてよ。お願いするわ」
甚八は車椅子を移動させ、シアターエリアになっているソファの中央に固定させる。
「よろしければ、ソファまで運びますよ」
「大丈夫よ。
本当に、そこまで悪くはないの」
ミヨはそう言い、車椅子のひじ掛けを支えに立ち上がる。
甚八は介助に徹し、ソファに座る手助けをした。
京護は二人のやり取りと、動作を眺めていた。
手伝い方が分からないのと、影の行動が読めない以上、一定の距離を保つしかないからだ。
いつか手伝いたいとも、思った。
親切に返したいと言う自然の感情と、母親が普通でいなさいと教育した内の、一つでもあるからだ。
甚八がソファの横に車椅子を移動させて、そのままミヨにシアター用のリモコンを渡した。
「アオちゃんが来てからは、たまにだけど付き合ってくれるの」
葵の名前に、分かりやすく京護の顔が上がった。
「賑やかで嬉しいの」
葵君と同じものが見たいな。
それは、声にも出ていた。




