第24話「静かな影と、胸のざわめき」
共存フェスは、ついに幕を閉じた。
コンビニ周辺は、片付けの余韻と、柔らかな疲労感に包まれていた。
要は店内の掃除をしながら、小さくため息をつく。
「……にぎやかだったなあ。
けど……ここからが、きっと本番なんだよな」
隣でピナが、床に落ちた紙くずを抱えながら顔をあげた。
「共存の火種は、ちゃんと灯ったのですー! ピナたちの勝利なのですー!」
「うんうん、えらいえらい」
要が苦笑すると、少し離れた棚の影からリュカの声が飛んだ。
「……お前、今日なにひっくり返したっけ?」
「リュカ!ピナは今日、ひっくり返してないのです! たぶん!」
「たぶん、って言うな」
そんな何気ないやりとりが戻ってくる。
だが、リュカの瞳は、どこか曇っていた。
フェスの終盤に出会った“あの少年”のことが、ずっと頭から離れなかったのだ。
魔力の気配が曖昧で、数値も読み取れない。
しかも、くーたが本気で威嚇していた。
(……あれが偶然の通りすがりだなんて、誰も信じない)
リュカの警戒心は強まるばかりだった。
「要さん」
と、マウロが静かに店に入ってきた。
「フェス、お疲れ様でした。こちらでも、たくさんの話題になっています。
村でも“共存”という言葉が、真剣に語られ始めましたよ」
「……そうなんですね」
要はうれしそうに微笑む。
「でも――ちょっと、不安もあります」
彼はふと、外を見つめながら続けた。
「共存って……きっと、きれいな言葉だけじゃ進めない。
たぶん、すごく面倒くさくて、すごく大変で……すれ違いもあるんですよね」
マウロは、その言葉に静かに頷く。
「ええ。だからこそ、語り続けなければならないのです。
面倒で、大変で、難しい。……だから、進める価値がある」
その言葉に、セッタも加わるように声を重ねる。
「始まりの灯は、もうともっています。……あとは、それを消さないことです。
あなたがたがいる限り、村はこの道を信じられる」
要は少しだけ、肩の力を抜いたように微笑んだ。
「……ありがとうございます。俺、がんばります。
“続けること”を、ちゃんとやりますね」
外では、くーたがうろうろと何かを探すように歩き回っていた。
時折、木立の方向を睨んでは、しっぽを逆立てている。
「くーた、また怒ってるのですー?」
「いや……あいつ、ずっと落ち着かない」
リュカが、くーたの様子を見て眉をひそめた。
(……やっぱり、まだ近くにいるのか?)
少年は姿を見せていない。だが、気配が完全に消えたわけではない。
それは――リュカ、ピナ、そしてくーたの“勘”が、確かに感じ取っていた。
ひっそりと、何かが見えない影のように蠢いている。
それは、やがてこの“共存”の道に、試練をもたらすものとなるのかもしれない。
まだ誰も、その本当の姿を知らない。
ただ――その“静かな影”が、確かに“近くにいる”ことだけが、確かだった。




