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第25話「名乗りの刻(とき)、そして始まり」

森を抜けた、その先。

小高い丘の上に、黒髪の少年が一人、腰を下ろしていた。


金の瞳が静かに瞬き、夜明け前の空を見つめている。


 


「……変わらないな、ここからの景色は」


 


共存フェスから、ほんのわずかな時が流れた朝。

誰にも気づかれぬよう、彼は、再びこの地に戻ってきていた。


くーたの威嚇。ピナの勘。リュカの視線。

すべては、想定内。


ただ――彼の本心は、誰にも読めない。


 


「さて。もう少しだけ“この世界”を見てみようか。

 父が守ろうとした“境界”は、今も生きているのか……」


 



 


その頃、コンビニ裏で木材を運んでいたリュカが、ふと立ち止まった。

空気の“波”のような揺れが、胸元に広がる。


 


「また……来たか」


 


手を止めたリュカの横で、くーたが低く唸る。

毛を逆立て、尾を高く掲げるその姿は、もはや“警戒”というより“拒絶”に近い。


 


「……あっちの方……?」


ピナも鼻をひくひく動かして、首をかしげる。


「リュカぁ、なんか……草の匂いじゃない“何か”が、したのですー」


 


リュカは静かに頷いた。


「たぶん、同じやつだ」


 



 


そして、ついに――。


ゼルは、コンビニの前にふたたび姿を現した。

今度は、はっきりと“正面から”。


 


くーたが吠え、ピナが「ああああ!」と後ずさる。


「また来たのですー! 前の金目の子なのですー!」


 


「ふたりとも、下がれ」

リュカが前へ出る。


 


「……名を聞く前に訊く。お前は何者だ?」


 


ゼルは、ゆっくりと首を傾けた。


 


「名乗る理由があるなら、名乗るよ。

 僕の名前は――ゼル」


 


その響きに、くーたがさらに激しく吠えた。


ゼルは、くーたを一瞥して言う。


 


「……やっぱり嫌われるな、僕。

 動物って、どうしても僕の“血”に反応する」


 


リュカの眉がぴくりと動いた。


「“血”……って、まさか」


 


ゼルは、穏やかに――だが、あまりに静かに言った。


 


「僕は、魔王の息子だよ。

 ……そして、君たちがここにいる理由を、見に来た」


 


リュカが無意識に一歩踏み出す。

ピナは口をぱくぱくさせて言葉が出ない。


「ま、ままま、ままま……!」


 


「魔王の子……って、なにそれ怖すぎるのですー!!」


 


しかし、ゼルの表情に敵意はなかった。


「安心して。今は戦いに来たわけじゃない。

 ただ、見たかったんだ。――この“共存”ってやつが、どんな顔をしてるのか」


 


「……共存、に興味が?」


リュカが問うと、ゼルは一度目を伏せ、そして静かに笑った。


 


「興味なら……昔からずっとあった。

 父は“孤独”の中で生きていた。僕はそれを、ずっと見ていたから」


 


一瞬、風が吹く。


ゼルの黒髪が揺れ、金の瞳が月光を跳ね返す。


 


「それに――君たちと話してみたくなったんだ。

 できれば、“友達”ってやつになってみたい」


 


その言葉に、リュカは一瞬だけ目を見開いた。

だが、すぐに、眉間に皺を寄せる。


 


「……いきなりは無理だ。信じるには、理由が必要だ」


 


「もちろん。だから――これから、少しずつね」

ゼルはそれだけ言って、くるりと背を向けた。


 


「また来るよ。今度は、もう少し“素直に”ね」


 


そう言って、彼は森の奥へと消えていった。


 



 


リュカはその背を見送りながら、胸の中で何かがざわめくのを感じていた。


くーたはまだ警戒を解いていない。

ピナは、少しだけ涙目だった。


 


「リュカ……あの子、やばいやつなのですー……でも、なんか……ちょっと寂しそう、だったのです」


 


リュカは静かに頷く。


「……たしかに。敵なのか、味方なのか。

 それを決めるのは、これからだ」


 


こうして、“魔王の息子”ゼルが現れたことで――

コンビニと、村と、世界と。

すべてが、静かに“変化”を始めていく。


 


物語は、新たな段階へ――。

◇ 第一章 締めくくりの挨拶 ◇


ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

異世界にぽつんと存在する、ちょっと不思議なコンビニを舞台にしたこの物語も、無事に第1章の終わりを迎えることができました。


 


はじまりは突然でした。

ある日、気づけば異世界に転移していた店長・要。

リスのような店員・ピナと、無口な魔力感知者・リュカ。

森にぽつんと建つこのコンビニに、少しずつ人が集まり始め、やがて“共存フェス”という大きな節目を迎え――

そして、魔王の息子・ゼルの登場が、新たな波紋を呼び始めます。


 


一章では、「共に暮らすって、どういうことだろう?」という小さな問いを通して、

要たちの日常や心の変化、そしてそれを見つめる周囲の人々とのつながりを描いてきました。


ほのぼのとした空気のなかに、

少しの不安と、ほんの少しの希望。

小さなコンビニが、“居場所”になっていく様子を、楽しんでいただけていたら嬉しいです。


 


そしてここから物語は、第2章へと進みます。

新たな登場人物、見えてくる過去、深まっていく絆――

果たして、“魔王の息子”は敵なのか、味方なのか。

そして要たちは、“この異世界”で何を選び、どう生きていくのか。


どうぞ、引き続き見守ってください。


 


それではまた、次の章でお会いしましょう。

ありがとうございました。


――作者より


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