第23話「黄昏のあとに、少年は」
共存フェスは終盤を迎えていた。
仮設の提灯が風に揺れ、屋台の明かりは少しずつ数を減らしていく。
にぎやかだった広場も、どこか名残惜しい雰囲気を帯びていた。
夕闇が差し込み、空気に冷たさが混じり始める。
コンビニ裏のテーブルでは、要・セッタ・マウロの三人が、紙カップを片手に会話を交わしていた。
「……なんだか、あっという間でしたね」
要の言葉に、マウロがうなずく。
「“人が集まる”というのは、それだけで空気を変えます。
ここに来る誰もが、ほんの少しでも、明日を信じて帰ってくれれば……それだけで意味がある」
「マウロさんやセッタさんのおかげですよ」
要が言うと、セッタは控えめに首を振る。
「いえ。動いたのは、皆さんの“想い”です。
私たちは、それをほんの少し手伝っただけ……」
その穏やかな空気の中、バトが木の板を運びながら通りかかり、軽く会釈をしていく。
マウロがふっと笑い、懐かしそうに見送った。
一方そのころ――
会場の少し外れ。提灯の光が届かない、木々の影に紛れるようにして、一人の少年が立っていた。
白い肌。
黒髪のセミロング。
そして、黄金の瞳が夕闇の中でほのかに光る。
彼の気配に、まず反応したのは、くーただった。
ぐるるっ……と低く唸るように喉を鳴らし、リュカとピナの前に立ちはだかる。
「くーた? ど、どうしたのですー?」
ピナが心配そうに声をかけるが、くーたはピナすら制するように前足をぐっと踏み鳴らす。
リュカが、視線の先――暗がりに目を凝らすと、少年の姿があった。
「……誰だ?」
リュカの瞳が細まる。彼は数値を見る能力を持つが――その少年からは、なぜか“正確な数値”が読み取れなかった。
まるで霧の中にいるような違和感。
(……力を抑えてる? 魔力を……隠してる?)
「動物に嫌われるの、昔からなんだ」
少年は、笑うでもなくそう言った。
それでも、くーたの威嚇は止まらない。
ピナが後ろから耳を立てながら言う。
「な、なんかヘンテコなのですー! ピナのリスレーダーがピコーンってなってるのですー!」
「お前のレーダー、当てにならないだろ」
リュカがぼそりと返すが、くーたの反応を見る限り――今回は“本物”かもしれないと思った。
「この祭りに、興味があってさ」
少年はふらりと歩き出す。フェスの灯りの方へ。
リュカはとっさに道を塞ぐように動いた。
「……お前、村のやつじゃないな。名前は?」
少年は、軽く笑った。どこか“演技”めいた、空気の読める笑い方だった。
「名前は、あとで名乗るよ。……今は、ただの通りすがりさ」
ピナのしっぽがぶわっと膨らむ。
「な、なにぃ~~!? なにそれ、ぜったいヤバいのですー!」
くーたも唸りを止めず、リュカは真剣な目で睨む。
だが、少年はそのままフェスの人混みへと溶け込むように歩いていった。
彼の背中が消えていくのを、リュカたちは黙って見送るしかなかった。
(何者だ……? まさか……)
少年の正体を知る者は、まだ誰もいなかった。
ただ、確かな“異質さ”だけが、夕闇に溶け込んでいた――。




