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非常識が常識

●●この小説は読者参加型です●●

あなたは自分が何科だと思いますか?

何科の人物に登場してほしいですか?

感想に書いていただければ、できる限り登場させてみます。

 怪人(カイジン)退治の後、俺たちは正義(マサヨシ)高校に戻った。クラスメイトからのねぎらいが心地良い。でも、この世界で成り上がるためには、まず常識を知らなければ。


 休み時間になると、俺は(シズカ)に狙いを定め、質問攻めにした。やつは寡黙科だから、変なことを聞いても言いふらさない。


聖人(セイジン)と怪人は敵対する存在だよな。怪人ってどういう生物なんだ?」

「……」


 閑は長い脚を投げ出し、ヘッドホンを耳に当て、目を閉じている。俺はその肩を揺さぶった。


「なあなあなあなあなあ」


 閑はわずかに眉をひそめ、ヘッドホンを外した。もしかしたらうっすらと怒っているかもしれないが、寡黙科だから怒鳴ったりはしない。助かる。


「……優人(ユウト)、なんか変」

「はいはい。聖人でも変人でも何でもいいからさ。怪人について教えてくれよ」

「……正体はわからない。人間になり切れなかったもの、とも言われる」

「つまり、人間性を極められなかった人間のなれの果て?」

「……聖人はもちろん、凡人(ボンジン)にすらなれなかった者。たとえば、前回倒した標識怪人は、〝ルールを守る〟という人間性を極められなかったと思われる」


 頭も腕も道路標識になった老婆を思い出し、俺は首をかしげた。


「でも、あいつをやっつけたとき、体がキラキラと散ったぞ。元人間なら、もっとグロそうだけれど」

「……正体はわからない。俺たちは生まれながらの細胞で〝(もく)()〟が決まっているが、それにふさわしい行動を達成できなかった場合、肉体に異常が起きるという見解が有力だ」


 閑は再びヘッドホンを耳に装着した。寡黙科はモテる。いやにモテる。長身黒髪の涼しげな容姿をもってすれば尚更だ。


 ・・・・・・・・・・ 


 俺たちの住まいは、校舎に隣接する寮だった。夜、一人部屋のベッドに横たわり、天井を見上げる。正義高校は全寮制。さすがの俺も家族をごまかす自信はないから、好都合だ。


 転生初日でさすがに疲れが溜まっていたのか、すぐに眠りに落ちる。


 ——教室中から笑い声が聞こえる。誰かが俺を指差す。


『ほら。立てよ、優等生』


 肩を蹴られる。背中を踏まれる。ランドセルをひっくり返され、教科書が散らばる。


『おまえ、なんで生きてんの?』

『俺は——』


 水中に沈められたかのように声が潰れる。もがきながら叫んだ。


「俺は悪くない!」


 はっと飛び起きた。肩で息をする。前世の夢か。


「くそっ……」


 目尻が濡れていた。乱暴にぬぐう。前世でも泣いたことがないのに、夢ごときで情けない。誰もいなくてよかった。


「あなたは悪くありませんよ。優人さん」


 耳元で声がして、ベッドから転げ落ちた。枕の脇に腰かけていたのは、小さな妖精だった。


「うわ、こいつ、何者だっけ!?」


 つい、思ったことをそのまま口に出してしまう。


「私は正義(セイギ)ちゃんです。正義高校での教育のサポートが仕事です」


 ガラス玉のような瞳が、床に転がる俺をじっと見ている。

 俺は尻をさすりながら、ベッドに這い戻った。なんだか今日はあちこちぶつけてばかりだ。さんざんいじめられてきたから、痛みには強いけれど。


「なんで俺の部屋にいるの?」

「心拍数の上昇と声色の変化から、危機的状況と判断しました。生活のサポートも私の仕事です」

「ごめん。来てくれない方が、恥ずかしい思いをしなくて済んだかも」

「寝言で、〝やめろ〟が二回、〝助けて〟が三回……」

「やめろー!」


 俺は枕を投げつけた。正義ちゃんはふわりと飛んでよける。機敏な妖精だ。


「今の〝やめろ〟で三回目です。念のため、記録しておきます」

「やめてください、お願いします」

「承知いたしました」


 帰る気配がないな。そもそもどこから入ってきたんだよ。


「えっと。せっかくだから、質問してもいいかな?」

「何なりと。生徒のサポートが私の仕事ですので」

「当たり前のことを聞いてしまうかもしれないけれど、気にしないでくれる?」

「復習ということですね。承知いたしました」

「じゃ、遠慮なく。きみは具体的に何ができるの?」


 そんな小さな体で、とは言わなかった。正義ちゃんは体長が十センチほど。強めのくしゃみで飛んでいきそうだ。パステル紫の髪をふわふわのお団子にまとめている。


「場面を変えることができます。正義高校の敷地内なら、どこでも。どこにでも」

「よくわからないや。やってみせてよ」

「教師の指示がないとできません」

「融通が効かないな」

「教育機関ですから。実際に明日の授業で見るのが早いと思います。健康のために、そろそろお休みください」


 正義ちゃんはとことん事務的だ。妖精って本来、もっとファンタジーで、愛想があるものじゃないのか。


「わかった。おやすみ」

「おやすみなさい」


 俺は布団を頭まで引き上げた。目を閉じる。静かだ。でも、眠れない。まぶたの裏に悪夢がよみがえる。手加減なく蹴られる感触や、冷たい笑い声も。


 大丈夫、大丈夫、大丈夫。あれは前世の話だ。今の俺は聖人で、学級委員長で、人気者で。最高の高校生活が約束されている。

 そう言い聞かせても、なかなか呼吸が落ち着かなかった。寝返りを何度も打つ。


 ふと、ひんやりしたものが頬に触れた。薄目で確認する。正義ちゃんの手だ。


「……帰らないの?」

「帰りません。危機的状況が続いていると判断しました」

「仕事熱心だな」

「仕事ですので」


 なんだろう。無機質な答えなのに、少しだけ安心する。俺は再び目を閉じた。正義ちゃんに頬を撫でられながら。


 次に目を開けたときには朝になっていて、正義ちゃんの姿は部屋から消えていた。このときには、まさかそれから毎晩、正義ちゃんが寝かしつけに来ることになるとは思いもしなかった。俺はそれだけ追い詰められていたのかもしれない。


 ・・・・・・・・・・


 正義ちゃんの仕事である〝場面を変える〟の意味は、すぐにわかった。


「はい。今日のロールプレイングの内容は、〝落とし物を拾う〟です。それぞれの人間性に従って行動してください」


 (ハルカ)先生が生徒たちに課題を出す。すると、先生の肩にとまっている正義ちゃんが、「場面を浜辺に設定します」と一言。


 次の瞬間、教室の景色がぱっと変わった。机や椅子のかわりに現れたのは、青空、白い雲、水平線。美しい浜辺だ。


「はあああっ!?」


 驚いているのは俺だけ。クラスメイトたちは慣れた様子だった。

 足元の砂を一握りすくってみる。さらさらと指の隙間からこぼれ落ちた。


「はあああっ!?」


 海風が吹く。鼻をくすぐる潮の香り。耳には波の音。


「はあああっ!?」


 くり返すしかなかった。あまりのリアルさに語彙力を失ったのだ。

 まつりに耳打ちされる。


「何度見ても感動するよね。正義高校は、国内有数の〝イデアリウム〟だよ。これほど人間性の教育にふさわしい環境は、他にないよね」


 ふむふむ。つまり、妖精の力で何にでも姿を変える施設のことを、イデアリウムと呼ぶらしい。確かにロールプレイングにぴったりだ。こんなことができるなんて、正義ちゃんの魔力は相当なものじゃないか?


 このあと生徒たちは、もしも落とし物を拾ったらどういう行動を取るか、一人ずつ発表した。それを受け、遥先生が、「はい、今の言動は六十点」「自由奔放さが足りません」「もう少し、あざとさが欲しいところですね」などと講評する。


 マジでおかしい。非常識だ。でも全員が真剣だった。俺のような演技ではなく、ありのままで人間性を磨いている。すべては聖人を目指すためだ。どうすれば、俺の力でクラスのレベルを底上げしてやれるかな。


 そして、好機はすぐにやってきた。

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