おやすみ
●●この小説は読者参加型です●●
あなたは自分が何科だと思いますか?
何科の人物に登場してほしいですか?
感想に書いていただければ、できる限り登場させてみます。
「今日は参観日です。教師にとって、一年で最も憂鬱な日です」
遥先生のため息に、教室中から野次が飛ぶ。
「弱気教師!」
「被害者ヅラ教師!」
「先生のツラは元々こんなもんです」
遥先生は嘆くように頭を振った。タバコの煙がぶわっと広がる。モモの香りだ。
「例年通り、競技は〝人間退治〟です。各学年の担任教師と学級委員長がペアを組み、三組で競います。はあ」
つまり——
三年生、桃実先生・隼人先輩チーム。
二年生、遥先生・優人チーム。
一年生、日向先生・真白チーム。
「……三年は強敵だな」
閑がぼそりと言う。
「なーに言ってんの! 優人が勝つに決まっているでしょ!」
まつりが机をバンと叩く。俺、もし失敗したら、まつりに殺されるかもしれない。
遥先生の肩のあたりで、正義ちゃんが羽ばたいた。
「体育祭と同じく、イデアリウムを活用します。お二人の体は保健室に保管され、かわりに分身が戦います。教師には戦闘力だけでなく、教育力、判断力、統率力も求められますので——」
「やめてやめて」
遥先生が、正義ちゃんをてのひらで軽く押し返す。
「氷乙。遥先生の活躍が楽しみだねっ!」
まつりがにやにやしながら振り返る。キリッと背筋を伸ばしていた氷乙が、一瞬で茹でダコと化した。
「あ、あ、あわ。ちっとも楽しみじゃないわよ! 負けちゃえばいいのよ!」
〝ツンデレちゃん〟が寡黙科の聖人に上がるには、まだまだ修行が必要だ。
「では、皆さん。校庭へ出て、客席に座ってください。優人、行きますよ」
俺と遥先生は保健室に向かった。並んだベッドに横たわる。
「ルールは無用です。致命傷を負うまで、ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃにもてあそばれる可能性もあります」
「そんな大げさな」
「毎年、数人は失神しますよ」
「へっ?」
「観客の方が」
「そっちですか!?」
どれだけショッキングなことが起きるんだよ。
「子どもにこんなことをさせるなんて」
ネネ先生が不満を漏らした。頭上では、正義ちゃんが光の粒をまき散らしながら飛び回っている。意識を分身に移す魔法をかけているのだろう。
遥先生は、生気のない目を天井に向けていた。
「優人。六十点くらいを目指しましょう」
「教師がそれ言っていいんですか?」
とはいえ、遥先生の強さは廃水族館で思い知った。あの規格外っぷりなら負けることはないだろう。気がかりなのは、そこではない。俺がどれだけ見せ場を作れるか。そしてこの世界の俺の親と鉢合わせしないかどうかだ。
魔法で頭がぼーっとしてきた。前世の苦い記憶がよみがえる。
父親は、俺と母さんを捨てて家を出ていった。優秀なエンジニアだったらしいが、知るもんか。
その日を境に、母さんのしつけは厳しくなった。〝誰よりも優秀でいなさい〟——そうしてできあがったのが今の俺だ。おかげさまで、転生後はぶっちぎりのスタートダッシュを切ることができた。
ありがとう、母さん。俺は今日も活躍するぞ。ああ、それに、生徒へ嫌がらせをしている教師がいるとすれば、そいつの正体も暴いてやる。それから、それから……
・・・・・・・・・・
次に目を開けたときには、校庭の真ん中に立っていた。体育祭のジャングルとは違い、殺風景だ。障害物のない、野ざらしの空間。理由はすぐにわかった。見せ物だからだ。
校庭は、三六〇°を観客席に囲まれた巨大スタジアムへと姿を変えていた。俺と遥先生の出現に、数万人規模の歓声が爆発する。俺たちは例の赤いジャージを着ていた。遥先生は恐ろしく似合っていない。
「あの、参観日にしては人が多すぎやしませんか……?」
「保護者だけでなく、正義高校への進学志望者、他校の生徒、野次馬、暇人など、全国から集まっていますので」
「参観日どころか、コンサートじゃないですか」
「なにせ国立の名門校での人間退治です。全国に生中継もされていますよ」
「コンサートどころか、オリンピックじゃないですか」
「オリンピックって何ですか?」
しまった。余計なことを。
「えーと、最強の人間を決める祭典のようなもので……」
「じゃ、まさにそれです」
観客席を見上げる。数え切れない人、人、人……胃が痛くなってきた。俺は目立つのが大好きだけれど、さすがにこれはやりすぎだ。
最前列にクラスメイトたちを見つけた。赤い旗を振り、俺たちに声援を送っている。そうだ、俺はこいつらのリーダーだ。最高のクラスだということを、俺自身が全国民に証明してやる!
再びスタジアムが歓声に包まれた。他の二チームが入場したのだ。
「よっ、優人。体育祭の借りを返すぜ!」
ゴールドジャージの隼人先輩だ。笑顔がまぶしい。勇敢科、武器はバズーカ。担任の桃実先生の人間性はわからない。派手なジャージを、すらりと長い脚で着こなしている。
「優人先輩っ。隼人先輩っ。お手合わせの機会をもらえて光栄です!」
ぴょこんと頭を下げたのは、白ジャージの真白だ。無垢な瞳をキラキラさせている。純真科、武器は光線銃。担任の日向先生は立ったまま、くうくうと寝ている。おーい。
俺は中継カメラの位置を確認しながら、小声で遥先生に問いかけた。
「作戦はありますか?」
「そんなもん、あるわけがないでしょう」
「ですよね。じゃあ、せめてアドバイスをください」
遥先生は深々とため息をついた。
「桃実先生と目を合わせないこと。日向先生をなるべく早く起こすこと」
「それ、どういう意味——」
そのとき、正義ちゃんのアナウンスが鳴り渡った。
「正義高校、年に一度の参観日。人間退治を始めます。競技は前半と後半に分かれ、ハーフタイムを挟みます。それでは前半戦、いちについて、よーい——」
号砲がとどろき、スタジアムがどっとわく。
最初に動いたのは真白だった。日向先生の腕を引っつかみ、猛ダッシュで遠ざかっていく。観客もどよめいた。逃げるなんて、どういうつもりだ?
「ぼくは自分から攻撃しません! 日向先生を狙った人だけを、確実に撃ち抜きます!」
フィールドの隅から、真白が宣言した。
「むにゃ……射撃なんて、ぼくには無理ですよう」
日向先生は寝言をくり返している。真白の校章バッジが輝き、手の中に光線銃が現れた。日向先生を背中にかばい、油断なく目をこらしている。
「……まあ、そう来ますよね」
遥先生が億劫そうにつぶやいた。
「日向先生は〝ユニーク目・居眠り科〟の聖人です。つまり」
「眠れば眠るほど、強くなる?」
げ。まーた変な人間性だ! 確かに、今すぐ叩き起こした方がよさそうだ。
人間性まとめ
日向先生/ユニーク目・居眠り科




