どうでもいい
●●この小説は読者参加型です●●
あなたは自分が何科だと思いますか?
何科の人物に登場してほしいですか?
感想に書いていただければ、できる限り登場させてみます。
その後は、怪人退治チームも遊園地を満喫した。ジェットコースターで絶叫し、射的で競い、お土産を買う。俺は常にその中心にいた。こんな高校生活が待っているとは。
途中、ベンチに寝転がっている遥先生を見かける。アイマスクをし、タバコをくわえたまま眠りこけていた。サボっているな。廃水族館で芽生えた敬意が消え失せる。
そんなこんなで、あっという間に閉園時間になり、バスへ乗り込んだ。珍しく遊び疲れたのか、まつりは俺の肩にもたれ、うとうとしている。閑は早くもゲロ袋を握りしめていた。俺たちは正義高校へ帰っていく。
・・・・・・・・・・
その夜。俺は閑とまつりとともに、寮の食堂で夕飯を食べていた。カメ怪人の話をすると、まつりは仰天し、カレーを食べていたスプーンを放り出した。
「閑っ、死にかけたの!? なんでもっと早く言わないのよ」
「……遅かれ早かれ、言わない」
「バカ! 友達なんだから、何でも話して。優人もだよ! わかった?」
俺は曖昧に笑ってみせた。何でもは無理だな。転生者だし。
ふいに後ろから声をかけられた。心音だ。
「優人くん。ちょっといいかな」
心音は数枚のコピー用紙を握りしめている。俺は、優しさ科としてすぐさま立ち上がるべきか悩んだ。あー、まあいいか。面倒くさい。
「どうした?」
椅子に座ったまま、心音を見上げる。
「あの廃水族館のことが気になって、図書館で調べたら、見つけたの。四十年前の記事」
心音がコピー用紙を広げた。古い新聞記事だ。大きな見出しが躍っている。
〝遊園地内の水族館で火災 けが人なし〟
「火事?」
「そう。閉館後だったから、お客さんも従業員も避難できたんだって」
「へえ、それはよかった」
「ここを読んで」
心音が記事の本文を指差す。
〝リクガメやイグアナ、カメレオンなどを展示する爬虫類ゾーンを中心に延焼し、多数の生物が犠牲となった〟
俺はまばたきをした。
『水、水、水ゥゥゥゥッ!!』
あのとき聞いた怪人の叫び声が、まったく別の意味を帯びる。
——火事だ! 早く、水を! まだ中に生き物たちがいるんだ!
人間は誰も死ななかった。だから事件は忘れられた。でも、生き物はたくさん死んだ。
あの怪人は、水族館の閉館を惜しんでいたわけではないのかもしれない。救えなかった命を忘れられなかった飼育員の成れの果て……かもしれない。
「かわいそうだね。本当にかわいそう」
心音の頬を伝う涙を見て、俺はぎょっとした。なぐさめじみた言葉を急いで探す。
「真相はわからないよ。あれが飼育員だったかどうかなんて、誰にもわからない」
「何にしたって、かわいそうだよ」
心音の涙は止まらなかった。やべ、次のセリフが出てこない。
かわりに口を開いたのは、まつりだった。
「泣いたって何にもならないよ。怪人は退治しなきゃ。でないと、人間がやられちゃうよ。心音は何のために聖人を目指しているの?」
責めているのではない。思ったことを、まっすぐにぶつけているだけだ。
「うん、うん……そうだよね。でも……」
心音は、声を殺して泣き続けている。俺は目をそらした。本物の優しさのようなものに触れると、イライラする。
心音は夕飯も食べず、そそくさと食堂を後にした。正直、カメ怪人の正体なんてどうでもいい。俺が気になるのは別のことだ。
「どうして強い怪人が、いないはずの場所にいたんだろう?」
「正義ちゃんが間違えたんじゃないの?」
まつりが、ぷぷぷ、と笑う。閑は微動だにせず言った。
「……何でも知っているはずの正義ちゃんが間違えるなんて、ありえない」
「わかっているよっ! 閑は冗談が通じないな」
まつりは頬をふくらませ、再びカレーをもりもりと食べ始めた。
想定外の出来事といえば、あのときも偶然、漏れ聞いたっけ——
「体育祭のあと、先生たちが話していたんだ。ジャングルのフィールド設定が過酷すぎたって」
「だとすれば、それは自分たちのミスだね。イデアリウムをいじれるのは正義ちゃんだけだし、正義ちゃんに指図できるのは教師だけだもん」
「わざと、ってことはないか?」
俺の言葉に、閑もまつりも食事の手を止めた。
「先生の誰かが、わざと難易度を上げたということ? それはないでしょ」
まつりが眉をひそめる。俺は、他の学年の担任教師たちを思い出していた。
「三年の桃実先生と、一年の日向先生って、どんな人だっけ」
「桃実先生は、超すてきだよね」
「……日向先生は、ずっと寝ている」
壊滅的な説明能力だ。情報が少なすぎる。
「先生たちのことが知りたいなら、もうすぐ参観日があるよ」
「保護者が高校に集まるのか?」
「そりゃ、保護者も来るよ」
「ロールプレイングの授業を見に?」
「まさか」
まつりが手を叩いて笑った。
「先生同士で〝人間退治〟をするんだよっ。ワクワクしちゃう!」
「えっ。子どもの高校生活を見るのが目的じゃないのか?」
「先生がこの高校にふさわしいかどうかを判断する日だよ」
それは見ごたえがありそうだ。他人が他人を品定めするところを安全圏から眺めるのは、おもしろい。気楽な娯楽だ。
閑の黒い瞳が、俺を見つめる。
「……優人もがんばれ」
「よっ! 学級委員長っ」
俺はスプーンを取り落とした。
「俺、何か役割があるの?」
「忘れたフリ? 学級委員長は、自分の担任の補佐をするでしょ!」
うわ、また魔法のフィールドに入るのか。でも遥先生は強いから、ペアを組むのはちょっとおもしろそうだ。うまくやれば俺の評価も上がりそうだし。自然に注目も集まりそうだし。悪くない。
……ん? ちょっと待てよ。参観日? この世界の俺の親も来るってこと?
嫌な汗が一気に噴き出した。




