生き恥さらし
●●この小説は読者参加型です●●
あなたは自分が何科だと思いますか?
何科の人物に登場してほしいですか?
感想に書いていただければ、できる限り登場させてみます。
「今日は遠足です」
正義高校が所有する大型バスの中。助手席の遥先生は、メガホンを片手に揺られている。窓の外には、真夏の青空と入道雲。郊外の遊園地に向けて高速道路を走行中だ。
「あのー、車内は禁煙でして……」
運転手に懇願されるも、おかまいなしでタバコを吸っている。今日はバニラの香りだ。
いつものように生徒たちから野次が飛ぶ。
「不良教師!」
「チンピラ教師!」
「先生はチンピラではありません。頭ではなく肺で考えて行動しているだけです」
車内は大騒ぎだった。声だけでなく、バドミントンの羽やバナナの皮まで飛び交っている。俺は、閑、まつりとともに最後列を陣取り、周りを巻き込んでババ抜きの真っ最中だ。
「優人、いくぞ!」
どこからともなくポップコーンが降ってくる。慌てて口でキャッチ。人気者は忙しい。
突然、隣の席の閑がうなだれた。
「……うっ……車酔い……」
閑の指の隙間から、トランプがぱらぱらと落ちる。
「あっ、閑がジョーカーを持っているじゃーん! 閑の負け!」
おてんば科のまつりにバシバシと背中を叩かれ、閑はうめいた。俺はすぐにまつりの手を払いのける。
「いくら寡黙科だからって、具合が悪いときは早く言えよな。せんせーい、ゲロ袋をくださーい!」
「優人、ゲロ袋って言い方、ひどーい」
車内がどっと笑いに包まれた。
「行き先は動物園でしたかね。もう着いちゃっていますね」
遥先生がため息をつく。教師の言っていいセリフじゃないぞ。
「バスが狭いよー。帰りたいよー」
気まま科の天馬がぼやき、シートベルトを外しかける。
「危ないので席を立たないように。帰るなら目的地に着いてから、徒歩で帰りなさい。では運転手さん、安全運転でお願いします」
うんざり顔の遥先生は、アイマスクと耳栓で防壁を固め、助手席で眠り始めた。
・・・・・・・・・・
にぎわう遊園地に入場するや、遥先生が言った。
「では皆さん、ここで自由時間とします。閉園まで存分に遊んでください。ただし」
俺、閑、まつり、天馬、杏咲、妹奈を見下ろす。
「聖人の皆さんには、ある場所に寄ってもらいます」
「なんで!? 早く遊びたいよ、ハルくん!」
すかさず、まつりがぶうたれる。
「いえいえ、楽しい場所ですよ。なんてったって水族館ですからね」
「やったー! ペンギン! アザラシ! クジラ!」
まつりが飛び跳ねる。頭上で爆走するジェットコースター並みの情緒だ。それにクジラはいないだろう。
案内されたのは、遊園地の敷地のはしっこだった。確かに水族館。でも、廃墟。長い間、雨風にさらされたような外壁は黒ずみ、錆びだらけの看板が斜めにぶら下がっている。
「ハルくん、これのどこが楽しい場所なのっ? 陰気すぎるでしょ!」
「楽しい楽しい怪人退治ですよ。正義ちゃん、情報を」
遥先生の肩にとまっている正義ちゃんは、小さな麦わら帽子をかぶっている。
「四十年前に閉館したこの水族館で、幽霊の目撃情報が複数上がりました。怪人と予測されます。まとめて退治してください」
なんだ。結局、遠足でも怪人退治か。
遥先生は、俺たちの後ろに視線を送った。聖人以外にも二人の生徒に声をかけ、連れてきたのだ。
「そして、凡人の皆さん。きみたちは、同じ科の聖人の見学につくこととします。貴重な機会なので、しっかりと学んでください」
うわあ、そういうことか。人間性が重複している生徒は少ないが、ゼロではない。俺の前にも一人やってくる。
心音だ。転生一日目以降、まったく話していなかったな。銀髪はきれいだが、この世界では珍しくもない。今となっては薄味すぎて埋もれていた。
「よろしくね、優人くん」
「あー……心音って、〝ヒーロー目・優しさ科〟だっけ?」
「忘れちゃった? 優人くんの邪魔にならないように気をつけるね」
心音がさみしそうに笑う。容姿も態度も地味。悪い意味で特徴がない。同調が美徳だった前世でなら好まれただろう。だがここは個性の戦国時代だ。
「おてんば科はかぶりがいなくてよかった! お守りをしながら退治するなんて、ごめんだよ」
大声で言うまつりに、閑が眉をひそめた。
「……まつり。そういうことを言うな」
「だって〝メッキ〟は武器すら出せないでしょ。足を引っ張られるだけじゃん!」
「……そういう呼び方もするな」
メッキとは、どうやら凡人をさげすむ俗称らしい。表面だけが整えられ、中身が伴わないこと。的確なネーミングだな。うーん。もしも俺がメッキなら、恥ずかしくて外を歩けない。
「もしもあたしがメッキなら、恥ずかしくてお天道様に顔向けできないよっ」
まつりがもっとひどいことを言っている。
もう一人、凡人の女子生徒が閑の隣についていた。寡黙科同士か。盛り上がらなさそう。
俺は満面の笑顔で心音に向き直った。
「よろしくな、心音。楽しくやろう!」
心音が素直にうなずいた。せいぜい引き立て役になっていただこう。
まつりが、天馬、杏咲、妹奈を振り返る。
「三人は、体育祭で聖人になってから一か月かあ。ロールプレイングで練習をこなしてきたし、確かに実戦デビューには良い頃かもねっ」
「あず、やっぱり怖あい。優人くんについていってもいい?」
あざとさ科の杏咲が、俺の腕にぴたりとしがみついた。それを見つけた遥先生が、シッシッと追い払うような仕草をする。
「高校生ごときに割り当てられるのは、雑魚怪人のみです。正義ちゃん、この廃水族館も同じですね?」
「はい。聖人一人で十分に対処できるはずですので、なるべく散らばることをおすすめします」
杏咲は「けちい」と唇を尖らせながら、しぶしぶ離れた。
遥先生が、バカでかいため息をつく。
「日暮れ前にエントランスへ戻ること。万が一、どーーーうしてもという場合には、先生に助けを求めてください」
頼むから声をかけないでくれ、と願っているのが丸わかりだ。やっぱりチンピラ教師だろ。




