ヒーローたち
●●この小説は読者参加型です●●
あなたは自分が何科だと思いますか?
何科の人物に登場してほしいですか?
感想に書いていただければ、できる限り登場させてみます。
毒の灰が届かない丘の頂上に駆けのぼる。眼下は火の海だ。毒に侵された者たちの悲鳴がこだまする。やがてそれも聞こえなくなった。
「は……はは……あはははっ……」
笑いがこみ上げる。赤チームの優勝、いや実質、俺の単独勝利だ。気持ちいい。たまらない。求めていたのはこの瞬間だ。
俺はジャングル上空を見上げた。……おかしい。勝負がついたのに、正義ちゃんのアナウンスが流れない。なぜだ。そのとき視界が歪み、膝から崩れ落ちた。
「っ、ゲホッ……!」
血が飛ぶ。呼吸をするたびに、喉の奥がヒュウヒュウと鳴った。袖で鼻と口を押さえてはいたが、それでも灰を吸ってしまったらしい。苦しい。早くファンファーレを鳴らしてくれ——
そのとき、草むらを踏む音が聞こえた。息絶え絶えの声も。
「えっぐ……体育祭って、こんなに過酷だっけ……」
「今年は絶対に難易度が上がったよなあ……」
俺は顔を上げ、目を見開く。
「——なんで」
思わず声が漏れた。隼人先輩のチームだ。四人そろっている。肩を支え合いながら、ふらふらと丘へたどり着いた。全員、大量の血を吐いている。俺よりひどい。でも、誰一人欠けていなかった。
四つ葉先輩が俺を見上げながら、苦しげに笑った。
「はあ……はあ……隼人のすごいところはね……毎年、優勝していることじゃない……毎年、チーム全員を生き残らせていることよ……」
隼人先輩が眉を落とし、笑顔を返す。
「四つ葉、しゃべりすぎ」
「チームを組めて……本当にラッキーだった……」
四つ葉先輩が頬を真っ赤にし、むせ返る。同時に体が崩れ散った。
晴生先輩は、目、鼻、口からも血を流しているのに笑っている。
「俺たちさあ……絶対に後悔はないよなあ」
「おまえは最後まで楽天的だな」
「だって、楽しかったし!」
晴生先輩の輪郭が、ふっと風に溶けた。
誠先輩はメガネを失い、七三分けの前髪は血と汗でぐちゃぐちゃに乱れていた。
「ああ……森林破壊を……止めたかった……」
「真面目か」
隼人先輩が吹き出した。誠先輩も少しだけ笑い、そのまま静かに消滅した。
残るは隼人先輩だけだ。大きく息をつき、俺を見る。白目が真っ赤に染まっていた。
「優人、おいで」
名前を呼ばれたが、動けなかった。俺だって辛いんだ。全身に毒が回り、指先まで痛い。肺だって焼けている。
すると、隼人先輩が歩み寄ってきた。
「こうして二人で話すのは、初めてかもしれないな……俺たちはいつも囲まれているから……」
ゾンビのような足取りだ。その不気味さに、俺は後ずさった。なんで笑っているんだ、この人は——
「俺が先に消えるだろうから、今のうちに伝えておくな……ゲホッ」
隼人先輩が咳き込み、血がぼたぼたと地面に落ちる。
「いいか。世の中には、いろんなヒーローがいる。勝つことだけがヒーローじゃないぞ」
にかっと笑った。
「負け惜しみじゃないからな」
次の瞬間、隼人先輩の姿が光に変わり、キラキラと空へ舞い上がる。俺はその光景から目を離せなかった。
「パンパカパーン。ただいま、今年の人間退治の勝者が決定しました。優勝は、二年生・赤チームです」
ファンファーレとともに、ジャングル中に正義ちゃんのアナウンスが響き渡った。視界が真っ暗になり、空も木々も地面も、何もかもが遠のく——
・・・・・・・・・・
気がつくと、真っ白な天井が視界に広がった。意識が本物の体に戻ったのだ。十五チーム・六十人分のベッドが並ぶ保健室。その真ん中で、ゆっくりと上半身を起こす。クラスメイトたちが飛びついてきた。
「優人! おめでとう!」
「あの隼人先輩たちを破るなんて!」
「チームの勝利のために真っ先に丘へ駆け出したとき、感動しちゃった」
「優しさで勝ち取った優勝だよなあ」
俺は笑顔を作り上げた。……よし、ちゃんと見られていたようだ。
「うわああん、優人くんがチームメイトでよかったあ」
杏咲が俺の胸をペシペシと叩く。男子たちににらまれるから、やめてくれ!
「お兄ちゃんには絶対に勝てないと思っていたから、嬉しい……」
妹奈がぼそぼそと言う。こいつが毒の灰に気づくとは。悲観的ということは、それだけ視野が広く、危険を見つける能力に長けている。敵を倒すという点ではポンコツだが、生き残るという点では案外使えるやつだったのだ。
「いやー、さっさと俺たちに見切りをつけてくれてよかったよ。優男くん、判断が速くて助かるー」
天馬がうんうんとうなずいた。
「何を言っているんだよ。チームで連携した成果だろ」
もちろん、そういうことにしておく。
そのとき、天馬、杏咲、妹奈の左胸の校章バッジが輝いた。おっ、これはもしかして——




