ミレディア、固有魔法が成長する。
この日、私は晴れ晴れした気持ちで朝を迎えた。
なんせオルセラがついに私付きから外れたのだから。まだポンコツながらも以前ほど周囲に被害を出さなくなった。
というわけで封印解除となり、奴はメイドの通常業務に従事することに。ただし、ユイリスのお守り付きではあるが。
「これでようやく仕事に専念できると、私もソフィアも胸を撫で下ろしている次第です」
公爵家を訪れていた私は、オルセラの進捗状況をルクトレア様に報告していた。
彼女はソファーに体を預けて頭を抱えている。
「……そうですか、うちの子がずいぶんとお世話になりました……」
「いいえ、これもオルセラという従姉を持ってしまった私の運命と割り切っていますので」
「苦労をかけますね……」
「もう慣れました。では、打ち合わせに入りましょうか」
今日私がここに来たのはオルセラの報告だけが目的ではない。いくつかの案件についてルクトレア様の意見を伺うためだ。事前に元老院側の意向や思惑が分かっていれば無駄な時間を省け、政務もスムーズに進めることができる。
ついでにエレアの顔を見ることもできるし。
と勝手に頭の中にエレアの顔が浮かんできたその時、ルクトレア様が「もうエレアにはお会いに?」と尋ねてきて少しドキッとする。
「い、いえ、この後にでも、と思っています」
「きっとあの子、今頃そわそわしているでしょうから、ぜひお願いします。……私は少しほっとしているのですよ。あなたが女王になられてもエレアとの婚約を破棄しなかったことに」
「そんなことしませんよ」
「私はしました。権力を握った後、一度は今の夫との婚約を破棄したのです。けれど結局、あの人と結婚したのですが」
やっぱりルクトレア様、なんか私と似た人生を送っているな……。
彼女は資料をトントンと束ねながらソファーから立ち上がる。
「夫とエレアはよく似ています。とても家庭的なところとか。仕事人間である私達には最適な相手ですよ。ミレディア様はまだ六歳ですので時間がありますが、なかなか稀有な男性達なのでその点だけお伝えしておきます」
「そ、そうですか……」
「私をお義母様と呼んでくれるのはいつでしょうね」
「まだ六歳ですので……」
……少なくともあと十年は先ですよ。
しかし、やはりまるで未来の自分と喋っているみたいで居心地が悪い。もう退散しよう。
私も持参した資料をまとめて退室しようと立ち上がると、ルクトレア様が何か思い出したように「あ」と声を発した。
「人によっては敏感に、変化に気付く者もいるようです。ミレディア様、あなたの固有魔法、成長していません?」
「ああ、そのこともお話ししなければと思っていたのです。忘れていました」
「やはり。今の強化率は何パーセントですか?」
「十四パーセントです……」
こう答えると私達の間に静寂が流れた。
ふと窓の外に目を向ければ、庭師の使用人が凄まじい速さで植木の手入れをしている。また、その周囲を歩いているメイド達もまるで早歩きのような速度だ。
超人になりつつある国民達を眺めながら、ルクトレア様は再度私に確認を。
「ミレディア様の〈全体強化〉、まだまだ成長しますよね?」
「……はい、おそらく(いえ、確実にします)」
「これは国中に『普段は力を抑えて暮らすように』と公示すべきでしょう。他国の人を怖がらせてしまいます」
「城に戻ったら早々に取りかかります」
私が応じてルクトレア様はため息と共に部屋の扉へと向かった。
「もし今が乱世なら、我が王国は大陸を征服できそうですよ……」
はい、実際に私は前世でそうやって大陸を征服しました。




