ミレディア、婚約者に会いにいく。
今日は久々にエレアに会いに公爵家にやって来ていた。
私が女王になったことで、彼が王になる道は閉ざされてしまった。いくらのほほんとした彼でもさすがに堪えているのではないだろうか。
……実は、その懸念があったからしばらく怖くて会いにこれなかったというのがある。エレアは私のことを恨んでいても不思議じゃない。あっちからも全く来ないし。いや、別に来てほしいわけではない。
と内心少し緊張しながら、客間で彼が現れるを待っていた。
「ようこそおいでくださいました、ミレディア様! 本当にお会いしたかったです!」
勢いよく扉を開けて現れたエレアは、まるで主の帰宅を長らく待っていた犬のようだった。
……あれ、全然堪えてないな。それどころか、以前より私になついている感じだ。
「エ、エレア、私が勝手に女王になったことを怒ってはいないのか?」
「どうして僕がミレディア様に? 女王におなりになったのも驚きはしましたけど、素晴らしいことですし」
「では、エレアは王になりたいわけではなかったのか?」
「全くなりたくありませんよ。大変なお仕事であることはアルフレッド様を見ていれば分かりましたし。僕に務まるとは思えません」
そうだったのか……。
じゃあ、どうしてエレアの方から会いにきてくれなかったんだ? 私はずっと待って……、いやいや、待ってはいない。そんなに待ってはいないが、待っていたんだぞ。
自分の本心がよく分からなくなったが、とりあえずそんな感じで尋ねてみた。
「お仕事の邪魔になっては、と遠慮しているうちにお伺いするタイミングが分からなくなってきまして……」
そうか、エレアも分からなくなったのか。その気持ちなら私にも分かるぞ。
とにかく恨んでも怒ってもいなくてよかった。
「エレアなら邪魔になるなんてことはない。いつでも来てくれて構わない」
「本当ですか! 嬉しいです!」
「ああ、何しろ私の仕事場には常に障害となるメイドが常駐しているからな……」
「お姉ちゃんですね……」
「……うむ、オルセラは大した奴だ。メイドとして業務をこなしているだけなのに城中を混乱に陥れるのだからな」
正直、私は政務のためにも可能な限りオルセラを遠くにやりたい。
しかし、近頃は少し考えを改めることにした。あの災いの種のようなメイドをきちんと管理することは、この王国の女王であり奴の従妹でもある私の責任なのではないか、と。せめてオルセラがもう少しまともになるまでは、私付きという封印で抑えておく決意を固めた。
……私自身に相当な痛手を伴う選択だが、皆の平穏のためには仕方ない……。
大丈夫だ、ユイリスならきっと何とかしてくれる。頼んだぞ、ユイリス……!
心の中で葛藤する私を、エレアはお茶を飲みながらじっと見つめていた。やがて率直な感想がその口から。
「……お姉ちゃん、なんかすごいですね」
「ああ、本当にすごいんだ……。ポンコツここに極まれりといった感じで」
……今更ながら、オルセラよ、なぜそこまでメイドにこだわる。やめてくれないかな……。




