ミレディア、ポンコツを押し付けられる。
私は女王となり、様々なことを自分で決められるようになった。
……はずなのに、これはいったいどういうことだ。
目の前では、新人メイドだという銀髪の少女が満面の笑みで立っている。どこかで見た顔だな、と記憶を探るまでもない。しょっちゅう見ている顔だった。
「オルセラ、私の部屋で何をしている……?」
「何って、お掃除に来たんだよ、じゃなくて、お掃除に来たんですよ。ミレディア様付きのメイドとして」
……なぜよりにもよって私付きに。
私の傍らに立つ女性の文官がかけている眼鏡をクイッと上げた。
「端的に申し上げますと、オルセラ様は持て余されておられるのです」
「どういうことだ?」
「最高権力者のご息女にメイドとして周囲をうろつかれると、誰も仕事にならないということですよ」
「つまり、私は押し付けられたんだな……」
尋ね返すと眼鏡の文官は「仰る通りです」と頷いた。
ちなみに、彼女は先日父へのアピールの際に手伝ってもらった黒髪眼鏡のメイドだ。ソフィアという名で、女王になったのを機に私付きの文官としてスカウトした。
なお、赤髪の子の方はユイリスという名であちらにも誘いをかけたが、メイドのままがいいと断られてしまった。給料も大幅に上がるというのに実に変わっている。だったらメイドとして私に仕えてほしいと頼み、私付きのメイドになってもらった。
私は人を見る目には自信があり、効率よく物事を回すために周囲には自分で選んだ人間を配置したいと常々思っている。
優秀な赤髪のメイドもいるからオルセラは別にいらないのだが……。
と思って眺めていると、部屋の掃除を始めていたオルセラが水の入ったバケツに足を突っこんで引っくり返った。オルセラも床も水びたしに。
……私は人を見る目には自信がある。間違いない、オルセラはものすごくポンコツのメイドだ……。
ここでまたソフィアがクイッと眼鏡を上げる。
「非常に申し上げにくいのですが、オルセラ様は極めてポンコツでおられるのです」
「ああ、見れば分かる……。あれも持て余されていた理由だな」
その時、ノック音の後に扉が開いてユイリスが部屋の中に。入ってこようとして、部屋の惨状を見るなりそのまま後退して出ていってしまった。
「待て待て! 見なかったことにするな!」
どうにか赤髪のメイドを連れ戻し、同じ私付きの先輩メイドとしてオルセラの面倒を見てほしいとお願いした。
「絶対に嫌です。どうしてもと仰るなら私はミレディア様付きをやめさせていただきます」
「……そこを何とか頼む。特別手当を付けるから」
話を聞いていたオルセラが「何の手当だ!」と叫ぶ。ポンコツ背負わせ手当だよ……。
説得に説得を重ねてようやくユイリスは渋々了承。オルセラと二人一組で部屋の掃除を開始した。
ずいぶんと静かになったことで、私も仕事の資料に目を通し出す。
しばらくしてソフィアがぽつりと「あれではプラマイゼロですね」と呟いた。
どういうことかとメイド達の方に視線を向ける。
また足元を見ないオルセラがバケツに足を、突っこむ寸前でユイリスがスッとバケツを移動させた。
さらに、高い所にはたきをかけていたオルセラがバランスを崩して背中から落ち、そうになったところをユイリスがスッと背後から手で支えた。
……ユイリス、すごいな。ここまで完璧にポンコツをフォローできるのは彼女くらいしかいないだろう。
しかし、その分ユイリスは本来の作業速度が出せていない。ユイリスの有能さとオルセラのポンコツさが相殺し合っている。
うん、これはプラマイゼロだ……。
この日私は、女王になっても全てが思い通りになるわけではないと学んだ。
それにしても、〈聖母〉と〈全体強化〉の恩恵があってこれとは、オルセラもすごいな……。どこの国でもポンコツで通るぞ。




