9こいつ本気(マジ)?
部屋に戻ると「お嬢様いかがでしたかお食事は?」とメイアが心配して尋ねた。
「最悪。あのスケベじじい。今夜私の所に来るって聞かないの。どうすればいい?」
「今夜ですか?どうしてそんな事に?」
「嫌われようとしたら逆だった。それにもうあいつ婚姻届けにサインしたのよ!あのじじいったら」
「お嬢様はサインは?」
「まさか、するわけないじゃない。まだ私の言い分を納得してもらってないんだから」
「では、今夜来られても拒否すればいいんです。せめて護衛を残しておくべきでしたね」
「ええ、でもお父様の指示で護衛は屋敷の前までって決められていたもの。引き留めるわけには行かないじゃない」
父は私がメイアだけ連れて行くと言った事をそのまま受け入れた。私もそれでいいと思っていた。なのにまさかこんな事になるとは。
でも、私には前世の経験があるではないか。ほんの2カ月の自衛官の経験が役に立つ時が来た?まあ、訓練野外活動で汗と埃にまみれ虫で完全にギブアップしたけど。他にも旅行会社の添乗員とか清掃業で得体のしれない物体の片付けとか弁当やでの、いや、ドラッグストアの接客に年末年始の屋台の売り子なんかも。
ほとんどこの世界では使えそうもないようなものばかりだが。
それでも夜遅くなる仕事柄暴漢に遭遇するかもと習った護身術で身を守れるはず。
「メイア大丈夫。私は平気。あんな男の一人や二人。やってきたら撃退してやるわ!」
私はメイアに言ってキッチンから麺棒を借りて来てもらった。そして香辛料を少し。使用人があまりいないのですぐだった。
夜になり屋敷は静かだった。灯りは全部落とさず小さくしてソファーに座った。メイアが一緒にいると言い張ったが彼女に迷惑が掛かるのも嫌だったし怪我でもしたらと思った。
大丈夫だから、もしもの時は叫ぶから駆け付けて欲しいと言うとメイアはやっと引き下がってくれた。
そわそわとしながら時間を持て余し座っているのも疲れてベッドに転がった。
布団の下には反撃の道具を仕込んである。
寝巻きではなく厚手の上着を着こみ下は乗馬用のズボンを履いている。すぐに脱がされない為だ。
ガチャガチャ‥ギィィィ。
扉が開く音がした。
「ジュリアーナ?寝てるのか?待ってろと言ったはずだろう」
鍵はかけてあったが、合い鍵を使って開けたのだろう。
このエロじじい!
部屋は薄暗い。ルーカスは入って来ながらそんな事を言いながらベッドに近づいて来た。
「勝手に入らないで下さい!私達はまだ夫婦ではありません。サインは3か月後でもいいって王家も言ってるんですから」
「そんなのどうせサインするんだ。今日だろうが3カ月後だろうが同じことだ。それにお互い再婚同士、婚姻なんか問題ない。さあ、いい子だ。わしを満足させてくれ。なっ、いいだろう」
最初に会った時とはまるで違う猫なで声にゾゾッと肌が粟立つ。
「そんなの。いくら結婚相手だからって嫌がる相手にこんな事!やめて!触らないだ!いやだったら!」
ルーカスはそんな事はお構いなしに一気に私の上に被さって来た。
ここまで大胆とは‥
「すぐに気持ち良くしてやる。なぁ、さあ‥」
彼の顔が近付いて来て息が耳元にかかる。酒の匂いがした。生暖かい息に吐き気を催す。
「いやだと言ってます。放して!いやだ!」
これは言っても無駄な奴。こうなったら痛い目に合わせるしかない。
「ジュリアーナ、怒った顔もいい。わしは意外とじゃじゃ馬が好きかも知れんな」
ルーカスは女が自分にかなうはずがないと油断している。無防備に顔を緩ませている。
私は枕の下の麺棒を握りルーカスの額に思いっきり叩きつける。
バコッ!
「痛っ!くそっ、お、おまえ何した?」
額に手を当てながら私の上から横に転がる。
すかさず麺棒で彼の鳩尾をつき上げてやる。
「グハッ!、お前!」
そのままベッドから転げ落ちて背中を丸めている。
「承諾もしない女に手を出そうなんて男のする事?信じられない。あなたと何か結婚するもんですか。絶対に!」
そう言ってルーカスの股間を目掛けて後ろから蹴りを一発。
グフッ、うぅぅぅぅ~
彼が完全に倒れ込んでも「‥ばか、王命だ。そんなこと出来る訳‥」
苦しげな息遣いをしながらもルーカスが言った。
「もう、話し合いの余地はなさそうね」
まあ、もうどうでもいい。こんな事するくらいなら隣国にでも逃げてやる。私の気持ちは決まった。
香辛料を手に握ると私はルーカスに近づき彼の目と鼻にそれをこすりつけた。
「グハ!な、何をした?クッソ、目が‥ヒッ、息が痛い‥」
ルーカスは逃げるように部屋を後にした。
もう、ここにはいられない。
すぐに逃げる支度を。
私は急いでメイアを呼び荷物をまとめ始めた。




