34君の未来を勝手に決めないから(テオドール)
あの後ジュリアーナと話をした。
俺は最初に告白した。まあ、カトレーヌがジュリアーナの姿だった時ジュリアーナと勘違いして好きだって言ったからジュリアーナは俺の気持ちに気づいてはいたんだろうが、本物のジュリアーナに告白したわけじゃないからな。
好きだって告白するとジュリアーナも俺が好きだって言ってくれた。
夢じゃないよな?俺は舞い上がった。
でも、ジュリアーナは言ったんだ。
「テオドールの事は好きよ。でも、私は王妃にはなる気はないの。だからもしあなたが国王になるなら私と結婚は無理かもしれないわね。それに私は離婚歴もあるしきっと国民もバツイチが王妃なんて許してくれないわよね。それに私、自分の人生は自分で決めようって思ってるの。離縁されて王命も出されて二度と私の未来を勝手に決められるのは嫌だから」
はっ?いやいやいや、それはないだろう?お互い好きなんだろう?何で結婚出来ないんだ?心の中で呟く。
「‥‥‥でも」と言いかけるとジュリアーナが俺の言葉を遮った。
「今だってカフェもあるし他にもいろいろやりたいこともあってとても王妃は務まらないと思うから。わかってくれるでしょう?」
勝手にひとりで決めないで欲しいと。
「ジュリアーナ。どうして君はそんな大切な事をひとりで決めようとするんだ?俺だって君が王妃が嫌だって言うなら考える余地はある」
「だって、お父様は引退させて国の腐敗を正してキルナートを立て直すんでしょう?あなたが国王にならなくてどうするのよ!あなたと結婚したいわ。すごく。でも、それは私達の問題で国民を巻き込むのはいけないはずよ」
「ああ、確かに、そんな無責任な事は出来ないでも、俺には弟のディオンだっている。彼が国王になる事も出来る。って、ジュリアーナ今結婚したいって言ったよな?」
「言ったけど。現実はそうもいかないわ。私、あなたが時々カフェに来てくれればいいわ。夕食を一緒に食べてワインでも飲みながら話をして‥会えないわけじゃないもの。贅沢は言わないわ」
「じゃ、俺は別の女と結婚しても平気なのか?国王になれば跡取りが必要だと言われるんだ」
「それは‥仕方がないわよ」
はっ?そんなのありかよ!
俺は焦った。そこまで覚悟を決めてるのかって。こうなったら決死の覚悟でジュリアーナを説得しなければ。
「仕方がないって、今の俺はもう昔みたいに仕方がない生活は出来ないんだ。俺には君しかいない。生涯を共にしたいのはジュリアーナ、君だけなんだ。だから少し時間をくれないか。待っていて欲しいんだ」
俺はジュリアーナの両手を包み込んで懇願する。
「テオ。でも、無理はしないって約束して、どうしても無理なら私、あなたを恨んだりしないから」
「ダメだ!だめだ!だめだ!ジュリアーナを諦めるなんて出来るはずがないだろう」
俺はどうしようもないほどジュリアーナを抱きしめる。
「もう、テオったら子供みたいなんだから」
彼女の声が耳元でして暖かい吐息がかかる。たったそれだけの事で俺の全身は歓喜に打ち震える。
「ああ‥ジュリアーナ。愛してるんだ。君を愛してる‥」
ジュリアーナを抱きしめる手にさらに力がこもる。
密着したところから感じる彼女の柔らかな感触、温かい体温。彼女の息遣い。
目の前のジュリアーナを見つめる。艶やかな美しい髪の毛、長いまつ毛に縁どられた紫色の宝石のような瞳、可愛くて食べてしまいたいような唇、すべてが愛しかった。
俺は決めた!
国王なんかやってられるか!ジュリアーナはカフェをやめる気はないって言うし、デヴェーラ国からは義理母のベイルン公爵はやって来てジュリアーナに布地のデザインを頼んだ。
ベイルン公爵はジュリアーナに取り入るために妹のタマラとか言う女がジュリアーナに酷い態度を取っていたことを知って妹を修道院に送ったらしい。
メートランド辺境伯もことのほかジュリアーナが気に入ってもし俺が手放すなら俺がと意気込んでいる。
そう言えば元夫のバルハン公爵がキルナートに現れたと報告を受けた。あいつ何をする気だと監視を付けているとどうやらジュリアーナに帰って来て欲しいらしい。今頃になってやっと彼女の実力を思い知ったんだろう。遅い!
パン屋も肉屋も他にも騎士のロイドとか言う奴も、あいつはデヴェーラ国からやって来たと聞いたがあのカトレーヌがジュリアーナに入れ替わった現場にいたと聞いた。調べてみるとジュリアーナを辺境に送りキルナートに一緒について来た騎士だとわかった。それでジュリアーナに惚れたのか?
一体どれだけの男を引きよせる気なんだジュリアーナは!!
ジュリアーナには秘密にして俺は国王をディオンに譲る準備を始めた。
まず、ディオンを説得して国王になるように話をした。後継者にはハルビート公爵やリンズベル侯爵家になってくれるよう説得をして何とか許しをもらい、トランド伯爵家はとり潰す予定だったがトランド伯爵の息子に新たなトランド伯爵位を引き継がせて、真摯にディオン国王を支えると誓わせた。
これで国王引継ぎは無事に終わった。
俺は国王の側近として王宮に顔は出さなければならないが王ではないから、後はジュリアーナを全面的に応援して手伝う予定だ。これで結婚してもらえるはずだよな?
その間にも毎晩ジュリアーナの所に通い店の片づけを手伝っていた。
すべてが整った夜、俺は正装をしてジュリアーナの所に馬車で迎えに行った。もちろん事前に招待状とドレスは贈っている。
ヤガートでも屈指のレストラン【クラウド】に予約を入れた。
いつもは質素倹約の俺もさすがにプロポーズをする場所は選ぶ。
季節の野菜のテリーヌ、黄金色のコンソメスープ、仔牛の赤ワイン煮、すずきの香草焼き、フルーツと栗のタルトなどどれも高級な料理が目白押しなレストランだ。
「テオドール?」
「今夜はここじゃなくキルナートでも有名なレストランで食事をしよう」
「でも」
「たまには違った料理も新しいメニューの参考になるんじゃないかな」
「もう、テオったら、そんな事言われたら断れないじゃない」
「ああ、もう予約を入れてあるから、断られたらキャンセルだな」
「仕方ないわね。付き合うわ。仕事は大丈夫なの?」
「ああ、ディオンへの引継ぎはほとんど終わった。リンズベル侯爵もハルビート公爵もディオンを支えてくれる事になっているから心配はいらない。俺はもうフリーになったから」
ジュリアーナが驚いた顔で俺を見る。
「そんなのだめよ。やっぱりテオは「それは俺が決める事。だろ?」まあ、そうだけど‥」
ジュリアーナは諦めてドレスに着替えてくれた。
ドレスは薄紫色のシルクのマーメイドラインのドレスだ。ぴったりフィットしたドレスは美しいジュリアーナを彩り引き立てていた。
「美しい‥ああ、きれいだジュリアーナ」ため息とともに言葉が零れた。
「あなたの見立てがいいから‥ありがとう、うれしい」
頬を上気させながらジュリアーナは恥ずかし気に口元をほころばせた。
胸の奥が幸せすぎてうずいた。




