24テオドールがどうしてこんな所に?
翌日仕入れに街の食料品店に行った。
「ゲイルさんおはようございます。そう言えば、奥さんの具合はいかがです?これ、庭で育てているハーブなんですけど良かったら」
珍しく奥さんが店にいた。
「まあ、ありがとう。いつも助かるわ。今日は調子が良くてね」
奥さんの顔色はまずまずと言ったところだと思った。
「良かった、奥さん、今日は顔色も良さそうですね」
「うちのが良くしてくれてね。助かってるの」
ゲイルさんが照れ臭そうに髪をかき回す。
「リアナ、いつもすまない。この前のありゃすげぇうまかった。タルタルソースって言うのか?こいつにも作り方を教えてやちゃぁくれないか?」
「ええ、ぜひ」
私はメモに作り方を書いてゲイルさんに渡して頼んでいた調味料を買って帰ろうと表に出たところにテオドール国王陛下と呼んだ方がいい人がいた。
「ジュリアーナ?」
いきなり声を掛けられた。
「で、でん」テオドールはすっと指を一本口元に当てる。彼は平民が着るような上着とズボン姿だった。
「あんた誰だい?この子はジュリアーナって言う名じゃない。この子に近づくんじゃない!」
そう言って店先に出て来たのはゲイルさんだ。
「あの、私、リアナって名前で」
彼がああ、そうかって顔で「リアナの知り合いです。あなたこそリアナとどういう関係です?」
すんなりとゲイルさんの問いかけを交わし反対に冷たい視線と声で問い詰めた。
「な、なんだお前?お、俺はここの店主で、彼女はお得意さんだ。何か文句があるのか!」
ゲイルさんは少し怖気づいたみたいに声を上ずらせた。
「あんた、どうしたんだい?店先で大きな声を出して」
「べリス、いや、こいつがリアナを」
「これは奥さんですか?俺はリアナさんと知り合いでしてご主人は何か誤解をされたみたいで、さあ、リアナ行こうか」
彼はさっきの態度をがらりと変えてにこにこして私を見た。
よく見ると少し離れた所に護衛が待機している。それに彼がこんな格好をしていても纏っている空気がみんなとは明らかに違う気がする。
それにしてもテオドールがどうしてこんな所に?
「あの、殿下、いえ、国王陛下がどうしてこんな所に?」
「まだ国王ではない、国王代理だ。今日は市場調査だ。ジュリアーナ。いや、リアナと呼んだ方がいいか?」
「はい、リアナでお願いします」
彼はクスッと笑って一度咳ばらいをした。
「君が言っただろう?肉が品薄になっていると、だから実際に自分の目で見た方が早いと思ったんだ。良かったら君について回ってもいいか?」
「でも、私なんかと‥」
「迷惑?」
テオドール国王代理がしょげた犬みたいな目で私を見る
もう、どうして一国の国王になる人がそんな目で見るの?いやと言えば不敬だと言われるかも、あまり関わりたくもない。でも、みんなが困っていることを知ってもらうのはきっとみんなのためにもなるはず。だから。
「迷惑ではありません」
「そう、良かった。‥‥聞いても?」
「何でしょうか?」
「さっき、あの男の人に何か渡さなかった?」
殿下の声がなぜか鋭いような。
「ゲイルさんにです?あれはタルタルソースの作り方を奥さんに教えて欲しいって言われて」
「ああ、そうか。いいんだ。じゃあ、行こうか」
次はパン屋に向かった。朝から忙しそうなリックさんが私を見つけると嬉しそうに挨拶をした。
「おはようリアナ」
「おはようございますリックさん」
いきなり彼に腕を掴まれそこで立ち止まる。
「いつもこんな調子なのか?」
「はい」
「もしかしてリアナはあいつが好きなのか?」
「ええ、好きですよ。気さくでいい人ですしとっても優しくて」
「ここには寄らずに次に行こう」
「いえ、そういうわけには、ここでパンと小麦粉を買って帰らないと」
「リアナ?大丈夫か?あの、失礼ですが彼女の腕、放してもらえませんか?」
「リックさん、いいの。彼は私の知り合いでだ、大丈夫だから、それよりいつものパンと小麦粉をお願いします」
「ほんと?俺、これでも結構力あるし」
リックは肘をぐっと折り曲げてやる気なら受けて立つみたいな仕草をする。
「ううん!ほんとに大丈夫だから、テオったらほら、彼が勘違いしてるから」
私は彼の絡ませた腕から自分の腕を抜く。何よりリックさんが不敬だと言われたらとひやひやしている。
「テオ?リアナ、今、俺をテオって呼んだ?」
柔らかな声が落ちて来て殿下が真っ直ぐに私を見ている。彼の耳は赤くなっている。
リックは冷めたようにパン屋の中に入って行くとすぐにいつものパンと小麦粉を持ってきてくれた。
「これ、いつものやつ」
「ありがとうリックさん」
私は品物と受け取ろうとすると彼が先に品物を受け取った。
「俺が持つ。リアナ次はどこ?」
「あの、肉屋です!」
私は一刻も早く立ち去った方がいいと判断した。
リックには悪いけど今日は日が悪い。
肉屋に入るといつものようにウィルさんが満面の笑み出迎えてくれた。この人はどのお客さんにも同じ態度なのだが。
「やあ、リアナおはよう。今日はリアナに特別なチキンを取り寄せてあるぞ」
私はテオドール国王代理の顔を見た。
ギュッと眉を寄せにらみつけるような目でウィルさんを見ている。
「店主。リアナに特別なチキンを取り寄せるほどの仲なのか?」
違う。違う。ウィルさんはみんなにそう言うんですよ。
私は首をぶんぶん振る。
「あんた、いきなり何が言いたいんだ?それにリアナとあんたはどういう関係なんだ?リアナはなぁ、牛肉や羊肉が手に入りにくくなっても色々な食材を代用して頑張ってるんだ。そんな彼女を応援して何が悪い?えっ?チキンは俺の友人から手に入れてるんだ。それをリアナに回して何が悪いんだ?」
二人の間に火花のようなものが‥
私は慌てて口をはさむ。
「テオ、ウィルさんはただのいい友達よ。彼にはいつもお世話になってるのにそんな言い方はよして!ウィルさんごめんなさい。彼も肉が手に入りにくいって知って実情を知ろうと今日はここに来たの。だからきっと勘違いして」
ウィルは何となく事情を察したらしい。ハッとした顔でさっと佇まいを正した。さすが商売人。
「これは、お役人の方とは知りませんで失礼しました。ほんとに困ってるんです。貴族のお方が大量に買って行かれるにはいいんです。売らないと言ってるんじゃないんです。ですがねぇ、入って来る量は決まってるもんで」
「そうか、どの程度の不足か、この先どの程度増やせばいいか。肉だけじゃなく一度王都の商店主で話をして政務局苦情係に出してくれるか?」
「そう言う事ならすぐに商会長に連絡して取りまとめます」
ウィルさんは急にペコペコして殿下に頭を下げた。
「ああ、頼んだ。リアナ必要なものを買ったら行くぞ」
「はい、ウィルさん、今日はソーセージとチキンをお願い」
「ああ、まいどあり。それにしてもリアナの知り合いだったとは、早く言ってくれよ。でも、おかげで助かった。これは持って行ってくれ」
ウィルさんが小さな青色の花の束をくれた。
「いいんですか?」
「ああ、昨日妹が持って来たんだ。俺、花なんか興味ないから良かったら店にでもと思ったんだ」
「まあ、ありがとう。じゃあ、また」
「さあ、行くぞ!」
彼は半ば強引に私の荷物を取り上げて空いた手をぎゅっと握った。私はそのまま引っ張られるように店に戻った。
そして店に荷物を置くとすぐに尋ねた。
「ジュリアーナ、いつもあんな調子なのか?」
「はい、みんな優しくて、ヤガートはいい街ですね」
「そうか‥今夜も食べにくる。その‥俺のことはテオと呼んでほしい」
「国王代理、そろそろ行きませんと」
護衛が時間だと呼びに来てやっと彼は帰って行った。
一体何がしたかったんだろう?市場調査って国王になるような人がする事?




