23テオドールカフェに来る
殿下が席に着くとまず、ワインを選んでもらった。
いつもならこんな事はしないが、相手は、そう言えば国王代理に就かれたと噂で聞いた。
テオドール殿下じゃなくて国王代理って事?
彼は赤ワインを選んだ。
「赤で」
「畏まりました。今日の料理がデミグラスソースのオムライスですので合うと思います」
「オムライス?」
初めて聞いたみたいな顔で尋ねた。
「はい、米をご存知でしょうか?」
「米?家畜のえさのか」
「はい、ですが米は大変美味しいのです。腹持ちも良く栄養価も高いので、今からお出しするオムライスを召し上がって頂ければ」
「ああ、ジュリアーナが言うなら間違いないだろう。楽しみだ」
「では、すぐに準備をしてまいりますのでごゆっくりお過ごしください」
私はあえてオムライスを選んだわけではなかったが、最初に驚かれて失敗したかもと思った。だが、彼は意外と素直にオムライスを受け入れてくれた。身分は高いが案外人の言う事に耳を傾けてくれる人なのかもと思った。
手際よくオムライスを仕上げ大き目の皿に盛り付けデミグラスソースをかける。付け合わせにアスパラガスのソテーを添えて、別皿にポテトサラダを入れる。
「お待たせいたしました」
彼の目の前にとっろとっろの卵に包まれたオムライス、デミグラスソース掛けを置く。
「ふ~ん。いい匂いだ。デミグラスがすごくいいな。どれ」
彼は置かれたスプーンを取るとすぐにオムライスを掬って口に入れた。
「う、うまい!なんだ?このとろとろの卵がソースと絡み合って、っそれに米がうまいな。こんなうまいものを家畜のえさにしてたなんて信じられん!」
次々にオムライスを口に入れて行く。皿の上のオムライスがあっという間に減って行く。
ポテトサラダに手が伸びてそれを口にすると「なんだ?これは!」
「あの、お口にあいませんでしたか?」
「ちがっ、これは?」
「ポテトに酢と卵の調味料で味付けをしたものです」
「ジュリアーナ、天才じゃないのか?こんなうまい料理が作れるなんて!他の客は毎日これを?」
「まあ、これ以外にも照り焼きバーガーとかチキン南蛮も人気ですが、今日は米料理がいいのではと思いましたのでこちらをご用意いたしました」
「はっ、照り焼きバーガーにチキン南蛮?くっそ!」
「何かご不快な事でも?」
「他の客が羨ましいんだ!しかし、とにかくどれもうまい。お客が押し寄せるわけだな」
彼の料理が三分の一になったところで春巻きの準備に入る。ゆっくり衣が薄い茶色になるまで油を少し引いた鉄板で焼いて仕上げ保冷庫に入れてあったプリンも取り出す。
春巻きは半分にスライスしてその上にクルームをホイップしたものを添えた。クリームの上にとミントの葉を乗せてその横にウサギ型に切ったリンゴも添える。
リンゴのウサギ飾りは母に教わったものだ。
「国王代理、デザートになります」
皿をテーブルに置くと「テオドールだと」と言いながらも彼の顔がほころんだ。
「これは‥うまそうだな」
「アップルパイ風の春巻きです。上には泡立てたクルームを乗せております。こちらのプリンも是非お召し上がりください。当店の人気商品です」
「そうか、どれもおいしそうだ。このウサギ。なつかしいな」
「えっ?」
彼はホイップクリームをたっぷりつけた春巻きを口に入れた。
「うん、うん、うん。うまい」
子供みたいだ。それにしてもさっきリンゴのウサギ飾りが懐かしいって?いや、気のせいだろう。
いきなり幼い頃一緒に遊んだセバスチャンと言う子の事を思い出した。彼と同じ銀色の髪で紫の瞳をしていた。私と同じ色ですごく親近感を覚えた。
セバスチャンも彼みたいに何でもおいしい美味しいって食べてた。そう言えば彼はメートランド辺境伯が連れて来ていた。思えばルーカス様とは幼い頃顔を合わせたこともあったのだ。今までそんな事すっかり忘れていた。
ルーカス様は私と知ってあんな事をしたわけ?最低!
それにしても殿下は美味しそうに食べる。
「いやぁ、すっかりごちそうになった。俺は多分柔らかい仔牛肉でも出されるのかと思っていたが、こんな予想外の料理で、しかもばかうまで驚いた」
「お口にあって良かったです。そう言えば国王代理はご存知ですか?最近は王都の肉の出回りが悪くてみんな困っていると言う事を?」
「どういう事だ?」
破顔していた顔がすっと引き締まる。
「実は最近、貴族のお屋敷が肉やチーズなどをたくさん買われてそのせいで平民が食べる肉が不足しているのです」
「それは本当か?」
「はい、うちでも肉が不足しているので肉以外のメニューとしてこんなメニューを出すようになったのですが意外にもお客様に喜んでいただけて良かったんですけど」
「そんな事態が‥いや、すまん。実は一部の貴族に不正があってそいつらは偽装して高級肉などを仕入れていた。それを摘発して、だから手に入らなくなった分を王都の商店で手に入れ始めたんだろう。すまない。そこまで気が回っていなかった。領民の為を思って腐敗している貴族をあぶりだしたのにこれでは意味がないな」
殿下はさっきまでのはつらつさを失くししゅんとしょげた。
「そんな事、国王代理は一生懸命仕事をされたんですから、この国がこうやって平和なのも殿下のおかげです」
私は慌てて彼を称賛する。
「そんな事はない。俺は今まで流されるままにやってきた。でも、ジュリアーナに助けられてこれではいけないと思ったんだ。それにジュリアーナとは‥いや、何でもない。他にも困っていることはないか?」
彼は何か言いたそうにしたが、すぐに話題を変えた。
「いえ、治安もいいですしみなさん優しくて暮らしやすい所だと思います」
「そうか。ジュリアーナ、これからも食事に来てもいいだろうか?」
そう尋ねられて一瞬戸惑う。
「ですが、あなたのような方がこのような店に‥」
「王宮にいると市井の事に気づくのが遅れる。だから、ここに来た時、街の暮らしや皆が困っている事なんかを教えてほしいんだ。それに、ジュリアーナの料理はうまいから」
「でも、私なんかが‥」
「こ、これは命令だ。ジュリアーナいいな!」
「はい、わかりました」
「すまん。つい。ただ、俺は君の料理が食べたいんだ。忙しい執務で疲れた心や身体がここに来るとほっと和む気がする。だから、頼む」
「そこまでおっしゃっていただけるなら、喜んで」
彼の顔がまるで雨上がりの雲間から太陽が顔を出すように明るくなった。
ふふ、テオドールって意外と子供っぽいのかも。
そんな不敬な事を思っていた。




