21キルナートに戻って(テオドール)
それから俺はメートランド辺境領を後にして国境からキルナート国に入ったジュリアーナの行方を追いながら王都ヤガートに帰って来た。
国王にはデヴェーラ国との条約はこのまま続くことを話した。
その間にジュリアーナの事も調べた。
彼女はリンズベル侯爵の孫の貴族令嬢が祖父の見舞いに行くと言う名目でキルナート国に入った事が分かったが、リンズベル侯爵。今は引退しているジュリアーナの祖父は元気でジュリアーナが訪れた形跡はなかった。
でも、泊った宿が分かりその後繁華街の裏手にある古い家を借りた事がわかった。
俺は驚いた。
あの、魔法を解いてくれた女性が?確かリアナと言った。
でも、髪色は茶色だった。瞳は眼鏡をかけていてはっきり見ていなかった。
じゃ、あの女性がジュリアーナだったのか?
何と言う運命なんだ。
俺を救ってくれたのが初恋の相手だったとは。
バカバカバカ!俺のばかやろう!!
まあ、ジュリアーナに会ったのはもう14~15年も前で彼女はまだ幼かったからな、それに髪色も変えていたしまさかだろ。
とにかくジュリアーナに会いに行きたくて調べると彼女はカフェを開くらしいと知り開店に合わせて花束を贈った。
そして夕方に彼女に会いに行った。
彼女は王太子である俺の警戒した様子だった。まあ、無理もない話だ。だから幼い頃の話をする事をためらった。
でも、彼女がジュリアーナだと認めさせるのにちょっと脅したみたいになってしまった。
そんなつもりじゃなかったのに、つい、焦ってしまった。おまけにランチセットが食べたいと無理を言って。
だって、ジュリアーナの作った料理なんだ。食べてみたいに決まってる。
それに俺を受け入れてほしくて強引に約束を取り付けた。
ジュリアーナ、俺は益々君が好きになって行く。
もう、この気持ちは止まらない。
でも、焦りは禁物だ。
彼女はバルハン公爵からもひどい扱いを受けていたらしいし、メートランド辺境伯であるおじさんも恐い思いをさせたんだ。
結婚なんか二度としたくないって思ってるだろう。
だから、慎重に事を運ばないと。って言うか俺は何を考えてるんだ?
すぐにジュリアーナに会いに行きたかった。
ふと、俺は思った。ジュリアーナが住むと決めたこの国を良くしなければいけいのでは?
苦境に立たされてもくじけず頑張って来た彼女には幸せになってもらいたい。
それにふさわしい男になるには俺も今までのように見て見ないふりはもう出来ないのでは?
今のまま行けばまた昔のように国が崩壊することはもう目に見えている。その事はハルビート公爵やリンズベル侯爵も常々危惧していた。
俺はハルビート公爵やリンズベル侯爵に声をかけて国王を引退に追い込みたいと相談をした。その考えを話すと両家は俺に協力を申し出てくれた。
すぐに貴族の腐敗した証拠を掴もうと話がまとまった。
トランド伯爵の動向や国王や王妃の無駄な出費なども調査の対象とした。
俺がその気になるとその言葉を待っていたとばかりに祖父であるハルビート公爵の息子、俺の叔父にあたるスタイ・ハルビートも協力を申し出てくれた。
すぐに政務関連から食品の捏造や商会からの賄賂関連の調査を、そしてリンズベル元侯爵やカイル・リンズベルは騎士団の側から騎士団の食品や武具などの癒着や水増し請求などを調べてくれた。
元々水面下でそう言う調査をしていたらしく、俺がその気になると証拠は簡単に出そろった。
そして議会招集。その場で商会との癒着の貴族やトランド伯爵が賄賂を贈って便宜を図っている事業や商会の証拠を上げた。
1つの綻びが出ると次々に他の貴族も罪を認め、行きつく先はトランド伯爵となった。
トランド伯爵は宰相の座を奪いこの国の利権をひとり占めする気だった事もわかり、その場で確保された。
これから裁判で罪を償う事になる。
そしてトランド伯爵を思い通りにさせたいた王妃と父である国王も責任を取る事になった。
エリウス国王、俺の父はそんな勝手は許さんと息巻いたが、俺は貰った国王代理権を余すことなく使い国王の権限を剥奪して父である国王を引退に追い込んだ。
父は怒り狂った。
俺は父の向かいに立って言った。
「父上、このままではキルナートはまた昔のように荒廃します。わかっているはずです。父上にはもう一度この国の事を考えて欲しい。国王としての威厳が残っているならもう、王としての権限を私に譲って下さい。それが一番丸く収まるとは思いませんか?」
「お前のような青二才が偉そうな事を言いおって!おい、誰か酒を持って来い。これが飲まずにいられるか!」
「そうやっていつも現実から目を背ける気ですか?それがいつまで続けられると?デヴェーラ国もいつまでも支援はしてくれません。鉱脈だって軌道に乗るまでにはかなりの時間がかかりますよ。このお酒だってラベルは安いワインですが、中身はかなり値の張るものだってわかってるはずです。表向きには国は順調に回っているように見えます。それは民が質素な生活を私達もしていると思っているからです。自分たちだけではない国王も貴族もみんなスープと硬いパンで暮らしていると思っているからこそ。こんな事を民衆が知ったらどうなると思います?父上がどうしても引退しないなら私はすべてを民衆にぶちまけるつもりです。どうします?民衆は束になって王宮になだれ込んできますよ。そしてあなたや王妃は断頭台に行く事になるでしょうね」
父の顔が強張る。
「テオドール。お前!父親を売る気か?」
「そんな事したいとでも?でも、国がつぶれて行くのを黙って見ているわけには行きません。心を鬼にしてやるつもりです。父上にその覚悟が?」
ひっ!
父が息をひきつらせた。
「わ、わ、わかった。引退する。その代り残りの人生は保証してくれるんだろうな?」
「もちろんです。罪人として扱わないと約束します。牢になどいれませんから安心して下さい。ただ、これからは王妃と共に北の辺境にある離宮で暮らしていただきます。それが私にできる最大限の譲歩です」
「おい、素直に引退すると言ってるんだぞ。北の辺境など」
「では、今までの罪を白日の下にさらして牢に入るんですね?いいですよ。渡したどちらでも構いません。お好きな方を選んでください」
すでにリンズベル伯爵が配備した騎士隊が部屋の外を取り囲んでいる。
俺は扉を開けて騎士を数人招き入れる。
騎士は剣に手をかけいつでも剣を抜けるよう構えた。
父は一瞬引いた。が。
「クッソ、すべて計画通りか。覚えていろ。トランドに頼んでお前ら全員くびにしてやるからな」
「父上、トランド伯爵はすでに捕らえられています。もう、牢に入ってますよ。あなたも隣に入りますか?それとも私が行った提案を受け入れるんですか?どうするんです?」
父は諦めて来たの辺境の離宮に行くことを選んだ。
王妃も一緒にすぐに出発の用意をする。
異母弟のディオンは国王となった俺にすぐに寝返った。
まあ、信用はしていないが、今すぐ同行するつもりはない。
「兄上、私は兄上が国王になられて心から嬉しく思っております。今までの腐敗した政治はもう限界が来ておりました」
「ああ、ディオン、お前が分かってくれてうれしい。だが、俺はお前をすべて信用しているわけではないからな」
そして心の中で言った。いつだって見張りを付けてお前は見張られていると思っておけよ。おかしな動きを見せたら父上と同じように辺境にお売ってやるからな
「信用頂けるよう努力します」
「ああ、その言葉よく覚えておけ!」
そうやって腐敗した貴族たちの粛清が終わった。
これでやっとジュリアーナの所に行ける。
俺はジュリアーナのカフェに明日の晩、食事に行きたいと遣いを出した。




