17王宮の腐敗(テオドール)
俺は王宮に入るとすぐに父の元に急いだ。
父の側近のセバスチャンは引退してセバスチャンの息子ロナートが後を継いでいた。
「テオドール殿下。よくぞご無事で、今までどこにいらっしゃったのです。国中を探していたのですよ」
「ロナートすまなかった。だが、すぐに国王陛下と話がしたい」
「もちろんです。国王陛下もどれほどお心を痛めておいでだったか」
俺は父の執務室に入った。
「父上、テオドールです。ご心配をおかけしましたがやっと戻って来れました」
父は執務室で仕事をしていたが、テーブルの上にはワイングラスがあった。
また、酒か。
「テオドールか?お前一体何をしていた。お前がいなくなったせいでカトレーヌは離縁して国に帰った。そのせいでデヴェーラ国の支援の危うくなっているのだぞ!お前と言う奴は!!」
怒りに任せて怒鳴られ、テーブルに会ったワイングラスを投げつけられた。
ガチャーン!
グラスは俺のすぐ目の前の床で粉々に砕け散った。
「待って下さい父上。話を聞いてください。俺はカトレーヌに魔法を掛けられて猫にされていたんです。王宮から追い出されて俺はどうしようも出来なかった。それでも俺が悪いと?」
父がまさに顎を落とす。
「何と言った?カトレーヌが魔法でお前を猫に?‥‥ハハハハハ。よりによってそんな嘘をつくとは、魔法で猫になどとふざけてるのか?お前の言い訳など聞く気はない!すぐにカトレーヌの所に行って離縁を撤回させろ!それ以外、お前が王太子でいられると思うな!」
「ですが、それが真実です。カトレーヌは護衛騎士と浮気をしていました。それがばれて俺に魔法をかけたんです。証人だっています。俺の魔法を解いてくれた人もいるんですから」
「まったく、帰って来たと思ったらそんな嘘ばかり並べおって。そんなに言うならカトレーヌとの婚姻はどうでもいい。とにかくデヴェーラ国との関係を修復しろ!それが出来たらお前をもう一度王宮に入れてやる。そうでなければお前は廃摘だ!わかったらすぐにデヴェーラ国に行ってこい!!」
父はそれだけ言うと執務を放り投げて出て行った。
そこに異母弟のディオンが入っていた。
「兄上、戻って来られたんですか?まったく、大変だったんですよ。王太子ともある兄上がいきなりいなくなって、僕がどれほど大変だったか、父上は酒ばかり飲んで執務も滞って、母上の父上であるトランド伯爵がいろいろ便宜を図ってくれなければどうなっていた事か」
トランド伯爵はこの国でも屈指の商会を持っていて、おまけに孫はディオンだ。次の宰相を虎視眈々と狙っているのは間違いなかった。
「殿下、ご無事で。どれほど心配したか、今までどこにいらしたのです。出れ程国中を探したか」
知らせを聞いて駆けつけたのだろう。ハルビート公爵でこの国の宰相、そして俺の祖父でもある。
俺の命があるのも裏で俺を助ける手配をしてくれたハルビート公爵のおかげだと言う事は知っている。
リンズベル侯爵に話を通してくれたのも、デヴェーラ国のメートランド辺境伯に話をつけてくれたのも、ずっと支援をして15歳の時王太子として迎えられた事も、すべてハルビート公爵が、裏で手を回してくれていた。
この王宮で唯一信じれる人だ。
「宰相、この度の事申しわけない。カトレーヌに陥れられ魔法で猫にされていた。ついさっき魔法を解くことが出来て急いで帰って来たんだ」
「猫に?」
彼は一瞬、眉間に皺を寄せる。無理もない。だが、すっと真顔になった。
「しかし殿下が猫にされていたとは‥もちろん、カトレーヌ元王太子妃が関与していることは調べがついております。ただ、それをいくら国王陛下にお話しても取り合っていただけませんでしたが」
「だろうな。俺もさっき笑われた。とにかくデヴェーラ国との関係を修復しろと」
「はい、それは急務の問題でして、ですが、王宮のこの仕組みを変えなければまた同じ事ではあります」
宰相が言いたいことは痛いほどわかっている。腐った貴族どもが裏で贅沢をする事をやめない限りこの国はまた取り返しがつかない状態になる。
すぐ近くでディオンが耳を研ぎ澄ましている。この場では何も言えない。ディオンの母は今の地位に縋りトランド伯爵は宰相になりこの国を操りたいばかりだ。
いずれは父を退位させ俺がこの国の国王となってそんな腐った制度はすべて失くすつもりだ。だが、今はまだ早いし父が言うようにデヴェーラ国との関係修復を急がなくては。でも、二度とカトレーヌと復縁するつもりはない。
彼女の浮気やこの王宮での酷い有様はきちんと向こうにはっきりさせて、デヴェーラ国とは新たな関係を作らなければならない。
そのためには俺にもう少し決定権が必要だ。
俺はもう一度父に話しをしに行った。側近のロナートを伴った。
「父上、俺にデヴェーラ国との取引の決定権を預けてもらえませんか。口だけの約束では相手はもう納得しないでしょう。お願いします。俺に国王代理の決定権を」
私室でソファーにふんぞり返っている父はすでにかなり酔っていた。
「そんなものが必要か?」
「当たり前です。鉱脈の採掘権利だって俺がただ話をするだけでまとまるとでも思いますか?俺が国王代理として確かな決定権を持っていなければその場限りの言い逃れと取られるやもしれません。新たな条約を結ぶとして今まで通り採掘権の半分は確約するとはっきり伝えなければなりません。その言葉に確かなものがなければ」
父は気だるそうに「ああ、わかった。わかった。確かにお前の言う事は一理ある。テオドール、お前に国王代理の権限を与える。その代り絶対に向こうの支援援助を取り付けるんだぞ。いいな?」
「はい、もちろんそのつもりです」
父に羊皮紙を手渡す。
テーブルで国王代理権をテオドール・キルナートに与えると言う書状を書き国王のサインをした。
そこにロナートがすかさず封蠟の準備をする。
乾いた羊皮紙を封筒に入れ火で溶かした蠟を落とす。すぐに父が指輪の印章で封をした。
「これだけしてやったんだ。必ず功績を持って帰れ。いいな」
「はい、父上、ありがとうございます」
俺はすぐにデヴェーラ国に向かう準備を始めた。




