14住む家を買ったら
キルナート国の王都ヤガートに来て一週間が過ぎた。
その間に母の宝石をペンダントに作り替え住む場所を決めた。
街の中心部から一つ入った小道にある一軒家だった。古いが手入れは行き届いていてすぐに住むにも困らなかった。おまけに裏手には小さな畑が付いていてハーブや野菜を植えれそうだ。
それに元々自生していた薬草もあって子供の頃母と一緒に薬草を育てていたことがあって意外と使えそうなものがあって驚いた。
伸び放題になっていた薬草もきちんと手入れをするとすぐに使えそうだ。
特にドクダミやアロエは怪我や解毒に役立つ。
必要最小限の物を揃えるとすぐに新しい生活が始められた。
契約の時にはジュリアーナは使わずリアナとなのることにした。
メイアも驚いたらしいが私は掃除も出来たし洗濯だって出来た。まあ、前世の記憶があるからだけど。
料理もある程度はこなせるし買い物にだって行ける。
服は平民が着ているワンピースにエプロンと言う格好で茶色い髪のカツラを被ればその辺りにいる女性とほとんど変わらなかった。
瞳の色が気になるので眼鏡をかけるのも忘れないようにした。
仕事はゆっくり考えるとしてまずは暮らしになれることからとメイアに言われている。
お金はある程度あるし前世でやって見たかったカフェなんかどうだろう?ここなら隠れ家的な感じで、1階の居間をカフェのスペースにして庭さきにもガーデンテーブルを置けばキッチンは居間の奥にあるので行き来きには困らない。どうせなら壁を一部取り壊してカウンター形式にしてもいい。
寝起きは2階があるので困ることもない育てたハーブや野菜でちょっとしたランチくらいなら出来そうだしと想いを馳せる。
早速ハーブ数種類とトマトや玉ねぎなどを植えた。
それにお菓子作りも少しは出来る、シフォンケーキやチーズケーキ。ゼリーやプリンなんかも作れるしと次第にカフェを始めたい気持ちは形になり始めた。
そんな我が家となった家にある日野良猫が現れた。
銀色の毛、紫色の瞳は愛らしく可愛い猫だった。
「お前迷子?」
猫は呼びかけても知らん顔で植えたばかりのハーブを口にする。
「それは猫には毒じゃない?」
猫は葉が付き始めたトマトを口にした。
思った瞬間猫を捕まえていた。
猫を抱き上げ口の周りを見る。葉っぱが付いていて手で口を開けようとするけど嫌がる。
「もう!」
猫は警戒したのか身体をよじった。思わずこちらも身体が傾く。
きゃっ!
猫の顔が目の前に来て猫の口と自分の唇が擦れあう。
ボワン!!
煙のようなものが上がりいきなり人間が現れた。
「うわっ!」
「うん?あれ?手が‥嘘だろ。人間に戻ったのか??ほんとに?どうやって戻ったんだ?」
私は驚いてその場に尻もちをついたままだ。
猫が人間になった?で、でも、髪は銀色で瞳は紫色。あの猫と同じ。端整な顔立ちの青年が現れた。って、そんな訳ある?
「おい、お前、俺に何をした?」
「何をしたって言われても‥葉っぱを取らなきゃって思ったらあなたが」
「おい、お前!さっきキスしたな。くっ‥」
「あれは事故です。あなたが逃げようとするから。って言うかあなた誰なんです?いきなり現れて失礼じゃないですか」
やっとその事に気づいたらしい男がハッとして姿勢を正した。汚れたち破れているとはいえ高価そうな布地の上着とズボンを履いていた。
「いや、すまん。俺はこの国の王太子のテオドール・キルナートだ。実は妻のカトリーヌに魔法で猫に変身させられていたんだ。王宮から追い出されどうやって魔法を解けばいいかとあちこち彷徨っていた。何とか何か毒消しのようなものがないかとあの草を食べた」
猫から人間に変身しただけでも物凄い驚きだったが、さらにこの国の王太子とか。無理なんですけど。
でも、どうして?
って言うか、すごい相手じゃない。一瞬喉の奥がキュッと締まる。
「失礼しました。そのような方とは知らず失礼な事をしてしまいました」
思わず貴族の礼をとる。
「お前貴族か?そんな事するなんて、でも、ここは王都の繁華街の裏手にある場所だぞ?」
まずい。
「いえ、見よう見まねでしたんです。あはっ。まったくそれでトマトの苗を食べたんですか。あれ、猫には毒なんですよ」
前世でペットに毒な食べ物って言うので読んだんですからと心の中でつぶやく。
「そうか、それでお前慌ててたのか。それで私を抱き上げて?そうか、もしかして女とキスしたから魔法が解けたって事か?」
「そんなの、私は魔法を使えないのでわかりません。とにかくあなたはこの国の大切な人だと分かりました。すぐに王宮に帰った方がいいんじゃないんです?きっと皆さん心配していますよ」
「ああ、そうだな。クソ、カトレーヌの奴、帰ったらすぐに離縁してこの国から追い出してやる!」
「えっ?カトレーヌ様なら離縁して国に帰ってますよ。もしかして王太子殿下は離縁したわけではなかったって事です?」
「ああ、あいつの不貞を見つけて問いただして事実を明らかにするところだった。だからあいつは俺に魔法をかけて。まさか猫にされるとは!!」
やっぱりあの王女殿下の事だから何かあるとは思ったけど。きっと王太子殿下がいなくなって離縁するとか言ってさっさと国に帰ったってわけね。まったくあの人恐ろしい心臓の持ち主だわ。こんな事がばれたら両国の信頼関係も失墜するってわからないの?
「とにかく、殿下は早く王宮に帰られた方がいいですよ」
「ああ、礼は改めてする。そうだ。君の名は?」
「私のような平民なんか気にしないで下さい」
「そういうわけには行かない。君は私の恩人だ。名前を教えてくれ!」
「リアナと言います。では、殿下お気をつけて」
「ああ、今日はこのまま失礼する。礼は改めて」
「いえ、気になさらないで下さい。私はそんなつもりはありませんから」
強く拒否をしておいた。
殿下はなぜか名残惜しそうに「いや、そういうわけには行かない。絶対にまた来るから」と私と指切りを交わして去って行った。
このまま何もありませんように。ごたごたに巻き込まれたくはない。




