Part.28 メリスの苦悩
残されたメリスはただ茫然としたまま仲間が出て行った扉を見つめた。
これまでどんな失敗をしても最後には笑って受け入れてくれていたのは何だったのか。
それほどまでに大きな問題だったのかと頭の中を思考が駆け巡る。
椅子に座ったまま顔を俯けた彼にアイの祖父は近寄ってそっと隣に座り、アイも壁際から離れて祖父を挟んで椅子に座った。
「坊主はなあ、大きなことを見逃しておるんよ」
「………見逃してるって……」
祖父は深い皺が刻まれた顔をメリスに向けて語り掛ける。
「そうさなあ、わしが思っとることと違ったらいかんで坊主の話しを聞かせてくれんか」
目を細めにっこりと笑う。
茫然としたままの彼は祖父の顔を眺めるため顔を上げて、不安げな表情を見せた。
「爺さん…オレはウインさん達に捨てられるんだ、でしょうか」
「ふむ、なぜそう思うんかね」
「こんな風に言われたのは初めてなんです。それにオレ、イヌチヨさんに許して貰ったけど言っちゃいけないことを…」
そういってまた俯いてしまう。
まずは話しができる状態にせねばならないと考えた祖父はメリスを励ますことにする。
「そこまで心配することもあるまい、聞いてた限りでは見捨てるようなことはせんじゃろう」
彼が安易な慰めをと感情を高ぶらせて顔を上げ始めたのを確認して言葉を続ける。
「そうでなければ、出ていく前にわしにお前さんのことを頼むなんて言わないじゃろ」
祖父がぎこちなく片目をつぶって見せる。
砕けた雰囲気になったところで、なぜ彼等と行動を共にすることになったかと合わせて今回のことを聞き出し始めた。
メリスが彼等の仲間になったのは半年前のことだった。
様々な種類の獣人族が寄り添って暮らす村に食料を求めてやってきたのがウイン達だった。
ギルドも置かれていない村では仲介する者もおらず、村長が代表となって話し合いをした。
魔物は少なからず居るものの、そこまで重大な問題となっていなかったため冒険者や探求者に依頼することもない。
それでは彼等が求める食料を分けて貰えるわけもなく、さてどうしようかと考えていたところで問題が発生した。
メリスの父親が猪に襲われて大怪我を負ったのだった。
村長はメリスの父親が完治するまでの間、彼等にその補助を依頼した。
急ぎの予定もなかったためウイン達もこれを引き受け、3週間近く滞在することになる。
ただし、これに嫌悪を覚える村人達がいた。
原因はハーフと呼ばれたイヌチヨとリヒトだった。
ハーフであるという理由で村の中で生活することを拒否してきたのである。
そのため村の外側に野営し、手伝いが必要な状況の時はウインとルイーナが中心となって活動していた。
幸いにも一部の食料については2人を通して交換することができたので、イヌチヨとリヒトが空いた時間を利用して近くの森で果物や動物を狩ってきたものを村人達に無償で提供し事なきを得ていたのだった。
これが後々のメリスの行動に影響を与えたのである。
接触の機会が多いウインには剣を操る術を教えて貰ったことで尊敬が生まれた。
同様にルイーナについても直接家事を手伝ってくれる間柄として姉として慕うようになった。
残りの2人についてはウインと共に食料を届ける役目もしていたこともあり、恩人の友人という形で接することになった。
ハーフという知識はあったが、嫌悪を持つどころか同情と申し訳なさで頭を下げる両親を見て嫌悪感は持たなかったということもある。
この関係も2週間まで良かった。
メリスの父親が本調子ではないが動けるようになると、ハーフを嫌っていた村人達から村長へもう良いだろうと抗議が上がり始めた。
少し前から言われ始めていたのを村長が庇っていたのだが、これ以上滞在させることは原因となったメリス一家に対しても悪影響を及ぼすと思い、ウイン達へ早めに村から出て貰えないかと相談したのだった。
そんな村人達の行動を見ていたメリスは、恩人達を追い出そうとする村のことが嫌いになり始めた。
剣の稽古の中、彼が愚痴をこぼしたことで今後の心配をしたウインがそれとなく両親に相談し、その直後村長から相談を受けたのである。
メリスの両親は大いに悩み、ウイン達4人と村の外で会い1つの決断を下す。
メリス一家はこの村から引っ越すことに決めた。
その際にはウイン達へ次の村までの護衛を頼み、その代わりに食料を準備するというものだった。
移動先については任せられること、道中では馬車が使える等の好条件もあって彼等はこれを受けた。
こうして村に滞在して3週間近く過ぎ、メリス一家とウイン達は共に旅を始めたのだった。
そしてアイが住む町の付近の村に居を構え、ウイン達に憧れたメリスが両親を説得して仲間に加わることになった。
こうした経緯でメリスはウイン達と仲間になったにも関わらず、感情が高ぶったとは言え、自身が嫌っていた村人達と同じ発言を持って仲間を貶めた。
旅の合間でリヒトに叱られた時は、不満を感じていたものの明確な理由が見えていたからこそ受け入れられていた。
しかし今回は自分の失敗を取り戻すため、自分の意志で取り戻そうとしたことを叱られた。
最悪の場合を想定して自分が大怪我を負うことはあり得るかもしれないと覚悟して行動していただけに、それを止められたことによる反発も大きくなってしまったのだった。
自分の結果を受け入れた上でけじめをつける行動を取った、つもりになっていた。
それを指摘したのは祖父ではなくアイだった。
「ウインさん達が怒ってる理由、わたしも分かるかもしれない」
話しを聞いているうちにメリスとジロウと重ねた彼女が、小声でジロウの過去を交えて話しをしてもいいかと確認をしていた。
『オレのことを話して彼が救われるのなら是非話しておくれ。オレも嬉しいよ』
自身の想いに同調してくれたことを喜び、メリスの話しが終わった辺りで割り込んだのだった。
(救えるなんて自信はないけど、彼の行動をジロウに置き換えたら分かる。いまの彼はきっと絶対間違ってる!)
アイは既に過ぎ去った彼の生き方を聞いて感じたことを思い起こし、自分がその場に居たのであればどうして欲しかったかを、彼に似た相手に伝えることで自身の想いも消化しようと考えたのだった。
「わたしがウインさん達だったらやっぱり怒ると思うよ」
目をつむって一呼吸整え、胸に両手を添えてメリスを真正面に捉える。
「だって仲間が失敗したなら頼って欲しいし、手伝いたいって思うもの」




