Part.27 冷徹な判断
踊り子からの提案に戸惑ったのは意外にもウインだった。
普段から掴みどころのない彼女がなにをするのかと不安になったからである。
彼の雰囲気を敏感に感じ取った踊り子は足を組み、大きな胸をさらに強調させるポーズを取って言い放つ。
「なによ、わたしの提案が不満なの?」
彼女を怒らせては後が大変ということを理解している男性3人が首が落ちるんじゃないかという速さで横に振る。
男達の行動に満足そうに頷く踊り子に対し、もう1人の女性はしょうがないなと苦笑する。
「それでえ、メリスちゃんは冒険者になりたいのよねえ。それじゃ何が大事かって分かるでしょう?」
「ルイーナ姉さん、オレのこと馬鹿にしてんだろ…」
挑発するルイーナにメリスは食って掛かる。
その行動がルイーナの狙ったものだとしても、彼には止められない。
自分の夢を馬鹿にされたと感じて大人しくしていられるほどに冷めてはいないのだ。
そういった点ではウインも同じで、彼女を責めるような視線を送った。
「ウインまでそんな視線送らないでよ。鞭で縛りたくなっちゃうわ」
腰元に引っさげている革製の鞭に右手を添えて、艶やかな唇に左手の人差し指を当てる。
その仕草はまさに大人の魅力を醸し出して、遠巻きに見ているアイはただ惹き込まれていくだけだった。
ウインとメリス、ルイーナの3人がじりじりとした視線を交わしていると、イヌチヨと修道士が待ったを掛けた。
「宿屋の人達に迷惑掛け続けてるんだからしっかりして。リヒトもそう思うよね」
「イヌチヨの言う通りだ。遊ぶんなら後にしろ」
「うっ…ちょっと調子に乗り過ぎたわ………ごめんなさい」
事の発端となったルイーナが謝ったことで、他の2人も素直に頭を下げる。
「メリスもルイーナの言ってることは理解できるだろ、まずはお前の考えから聞かせて貰おう」
脱線しかけたことで場を仕切るのはリヒトになったようだ。
「自分のことは自分でけじめをつけるってことだろ」
少々荒い言葉遣いになってしまったが自分が常日頃から考えてた冒険者像を意識して答えた。
ウインは軽く息を吐くとメリスに身体を向けて、さらに問いを投げる。
「自分についての範囲っていうのは考えたことはあるのか」
「それはオレ自身のことと、オレが起こした行動の結果について…じゃないのか」
「そこは言い切りなさいよ」
これまで考えていなかった内容にしどろもどろになり語尾が萎んでいく。
指摘してきたルイーナに恨みがましい目を向けるが、軽やかに受け流されてしまった。
ウインは分かりにくかったかと考えて、質問の内容を変えて再度問いかけた。
「今回のことについてリヒトがなぜあそこまで怒ったと思う。普段の言葉遣いは荒くとも叱りつけることは少ないだろう?」
「言葉遣いは余計だぞ」
「これを機にもう少し修道士らしい言葉遣いにしてみたらどうだ」
「はっ、いまさら身内に対して変えようとは思わねえよ。ちゃんと時と場合で使い分けはするさ」
「そうか」
優しい男だとウインは微笑むと、照れ臭くなったリヒトは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
質問を投げられたメリスは、尊敬しているウインが自分とリヒトとの信頼に差をつけているように感じ、不満を募らせつつこれまでのことを思い起こしていた。
確かに注意してくることはあっても、今回のように上から叱りつけるようなことは滅多になかった。
あったとしても自身の不注意で野営に支障を来たした時や、単独で獲物を追いかけようとした時だった。
しばし悩んでみても、今回のことは違うと思った。
自身の不注意で魔物を取り逃がしてしまったことで仲間に不利益を生じさせてしまった。
対峙した感覚から言えば、今回相手にした魔物は独りでも十分倒せると判断したのもある。
だからこそ自分の手で何としても解決したかったのだ。
その様子を眺めていた4人は理解できていないのだろうと確信に近い想いを共有していた。
時間が経つにつれて不満を溜めていく様を察したウインは極めて無表情な顔をして告げる。
「分からないか…なら、今日はもう狩りについてくるな」
「えっ、ウインさん?」
「ごめんね、わたしもそう思うよ」
「イヌチヨさんまで…っ」
尊敬していた相手と、これまでどんな時も優しかった相手から切り捨てられるような言葉を受けてメリスは固まった。
2人の仲間が下した決断にリヒトとルイーナも無言でもって回答とし、席を立ち扉に向かっていく。
壁際で事の次第を見守っていたアイと祖父に小声で話しかけると祖父は軽く頷いた。
リヒトが残った2人に合図を送ると、先に行動した仲間の元へと歩を進めていく。
急な行動に追いつけないメリスは唖然としまま見送るしかなかった。
ウイン、ルイーナ、イヌチヨが部屋から出たのを確認してリヒトはそんなメリスに声を掛ける。
「考えろ、そしてウインが最初にした質問を思い出せ。まあ、今日は身体を休める日だと思って知恵熱が出るくらい脳を回転させるんだな」
そう助言を残し、祖父へ身体を向ける。
「翁さん…ご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします」
お辞儀をした後、アイにもごめんなと言って部屋を出て行った。




