Part.29 ウイン達の後悔
部屋に残されたアイ達が相談を受けていた頃、ウイン達は昨日失敗した討伐依頼を達成するために森の近くまで足を運んでいた。
宿屋を離れてから言葉を発した者はおらず、普段以上に無表情となったウインを先頭に淡々と町中を進んでいった。
森の前までその調子のまま草原を進んでいたが、リヒトが我慢できずウインに声を掛ける。
「なあ、おい、気持ちは分かるがちょっと待てよ」
「なんだ」
振り返らず静かに返答が帰ってくる。
猫耳の根本辺りをカリカリと掻いてリヒトが歩調を速めてウインの肩に手を置いて振り向かせる。
「あああぁぁぁあもう、そんな泣きそうな顔してんじゃねえよ!」
「してない」
「どう見てもしてるだろうが、このぼけがっ」
頭を片手で掴むとそのまま脇に固めるように持っていく。
身長が近しいのと修道士としては身体を鍛えてるリヒトの力によって簡単に捕まえられた。
それにルイーナも呆れた表情で近寄ってウインの頭を引っぱたく。
「ほんとだよ、そんな状態じゃ使い物になりゃしない。メリスと一緒にお留守番でもしておいで」
「ルイーナもそんなこと言っちゃだめだよ、ウインだって落ち込んでるんだから、ね?」
「イヌチヨは甘過ぎよ」
すかさずイヌチヨが近寄ってルイーナを宥めると、はいはいと言って腕を組んで近くの岩に腰を下ろした。
「で、うちらの騎士様はどうするのさ」
「このまま狩りにいく」
「だからそれじゃ駄目だから言ってんだろうが!」
不貞腐れたように目をそらして答えるウインに対し、更に腕に力を込めてリヒトが声を荒げる。
結局、残してきたメリスのことが気になっているのである。
岩に腰掛けたルイーナにイヌチヨも近寄って、傍に腰を下ろすとルイーナに顔を寄せる。
「翁さんに事情説明してきたんだよね?」
「簡単にだけどね。あの翁ならそれで何とかしてくれるでしょ」
男2人に視線は向けたまま耳元で囁かれ、彼女もまた顔の傍で動く犬耳に同じ動作で返答をした。
”翁”はアイの祖父の愛称で、この町の冒険者達にそう呼ばれている。
人生の先輩であり、年老いた今でもその技量の高さゆえ稽古を願う者が祖父の宿屋に泊まりに来るぐらいだった。
彼も若い世代に触れることを楽しみにしているため、昼や夕方の空いた時間を利用して稽古や食事をしながら過去の体験を語っていることで尊敬されている。
ウインはリヒトの腕を力づくで解くと、もう森に向けて進む気はなくなったのか仲間と話す気になったようだ。
仲間の顔を眺めるように見渡すと、腰の片手剣の柄を撫でながら肩を落とす。
「オレはメリスに大切なことを理解させてやれなかった」
草原の風に乗って彼の呟きは皆の心の内に広まっていく。
それに最初に反応したのはリヒトだった。
「それはオレも一緒だろ」
ルイーナもイヌチヨも同じ想いで頷いた。
「心の教育をリヒトに任せ過ぎてたよね…ごめん」
「もっとメリスのことを見ていて上げれば良かったね」
誰しもが己の至らなさに歯がゆい思いをする。
「翁にだって今回は頼り過ぎちまったな。帰ったらしっかりお礼しとかねえともう顔も見れやしない」
「そうだな…」
「わたしらだって謝るよ」
「皆で謝って何かお手伝いしましょ」
「ははっ、ならこのまま討伐のついでに今晩のおかずでも狩ってくるか」
リヒトがおどけた様子で付け足すとそれに合わせて仲間が笑う。
腰かけていた岩から勢いをつけてイヌチヨが立ち上がって森に向かって草原を少しだけ歩く。
そうして皆の視線を集めると後ろで手を組み、犬耳をぴこぴこと動かして振り返る。
「近くに猪が居るみたいだね」
「そいつはいい、早速狩りにいこう」
リヒトと共に狩りの準備を始める2人を、ウインとルイーナは寄り添って見ている。
ウインの鎧を突きながら彼女はにぃっと笑う。
「ねえ、いま考えてること当ててあげようか」
「当てられるものなら当ててごらん」
「もう今日で討伐依頼終わらせる気がないでしょ?」
「何のことだい?」
惚けようとする彼に顔を近寄せて笑みを深める。
「だ・か・ら、今日の討伐失敗したーって言って明日はメリスを連れていく気でしょ」
間近まで接近させられても顔色一つ変えず、彼は無表情のままだった。
それでも仲間なら分かる。
特にウインとルイーナはずっと昔から一緒に居るのだ。
「まっ、これで終わりにしてあげる」
彼女は長い金髪を彼の頬に当てるように振り返って、イヌチヨ達の傍に駆けていった。
残されたウインは目を閉じて太陽に向け顔を上げる。
(メリスは残される者の気持ちが少しでも分かってくれただろうか)
去り際の表情を見れば仲間への気持ちは本物だったんだと思える。
そう判断できる程度に彼はメリスのことを評価していた。
「…はあ、簡単な討伐依頼を3日掛けてか。この赤字を5人でどう取り戻したものかな」
吐いた溜息とは反対に、その言葉には仲間の有難みと信頼を滲ませていた。




