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Part.25 冒険者達の諍い


彼の想いは報われた。


彼の心を救った彼女は窓から差し込む暖かな光を感じ、満足そうな笑顔を見せて立ち上がる。


「………さあ、今日も一日頑張らなきゃね!」


勢いをつけベットから飛び降りると素早く身支度を始めていく。


宿屋の仕事は朝が最も重要なのだから、彼女の思いに関係なく背中を押してくる。


彼女より大きな姿見の前で一通り身嗜みを確認し、両親が居るであろう1階に向けて歩を進めていった。


(答えを聞きたいけど…いまはそっとして置いてあげよう)


胸の内に寄り掛かるジロウを案じて彼女は動き出した。




階段を降りていく途中で男性が誰かを叱りつけるような声が聞こえてきた。


大半の冒険者がまだ寝ている時間のことを考えると、宿屋に対しての抗議だろうかと判断して刺激を与えないようにそっと足を忍ばせる。


階段下の椅子に座っていた祖父がアイに気が付くとこちらにおいでと手で招いた。


「お爺ちゃん、何かあったの?」


耳元に顔を寄せて小声で問いかけてくる孫に心配いらないと頬を緩めて安心させると、隣の椅子に座るように促してきた。


「なんてことはない、ひよっこがおいたをしそうになったのを諫めてるだけさ」


顎で騒ぎの中心となっている冒険者達を指す。

アイもその仕草を追って視線を送ると、数日前に彼女が受付けをした4人の冒険者とその見習いが1つの机を囲んでいた。


どういった経緯で話し始めたのかが気になり、祖父に訪ねてみると懐かしさを顔に浮かべ教えてくれる。


「一人前に扱って貰えないと思っとる小僧っ子が昨日の失敗を取り戻そうとして独りで森に入ろうとしたんだわ。それを止めるために動いた保護者共が叱りつけてるというわけだな」


最後に、まあ良くあることだと締めくくるとアイにも話しを聞いてお行きと告げる。




机の横に立っているのは、黄金色の毛並みで兎らしい円らな瞳の獣人少年が涙目になって仲間の冒険者達を睨んでいた。


椅子から立ち上がり叱りつけているのは人間に近い顔をして頭の上に猫耳を生やした茶髪の獣人で、黒い修道着を纏っている男性。

その隣で困った顔を浮かべ2人を落ち着かせようとしているのが緑髪で、こちらも男性同様に人間に近い顔と犬耳を生やした狩人らしい獣人の女性。


机の向かいには柔和な笑みを浮かべて優しく諭そうとしている青髪の男性がおり、騎士のような銀色の鎧を着ている人間。

それを面白がって笑って居るのは長い金髪を揺らす人間の女性で、こちらは動く度にしゃらり、しゃらりと音を鳴らす金属を薄布につけた踊り子のような衣装を纏っていた。


修道士は大きな声を上げているわけではないが良く通る声で兎少年に言い聞かせているようだが、当の本人は睨みつけるだけで話しを聞くつもりがないようである。


2人で睨み合いを始めると、狩人が慌てて間に入って修道士の胸を押して距離を取らせる。


「落ち着いて話そうよ、この子だってちゃんと話せば…」

「子ども扱いするな、オレはお前なんかより役に立つんだこのハーフが!」


狩人の言葉を遮って兎少年が怒ると、狩人の女性はびくりとして瞳に涙を滲ませ俯いた。

修道士が狩人の様子に気が付いて顔を少し下げて彼女の涙に気が付くと、これまでの怒りとは別の感情が吹き荒れる。


「貴様…いつまでも優しくしてると思うなよ。覚悟を決めろ!」


この場で暴れてやろうかという荒ぶる感情を抑え詰め寄ろうとする修道士を、狩人は見上げながらも首を横に振って留めようとする。


これまで笑って見ていた踊り子だったが、さすがに見過ごせなくなり隣の騎士へ止めて貰えるように何か小声で呟いたようだった。


「2人ともそれまでにするんだ」


優し気な雰囲気を一変させ騎士が座ったまま威圧感を放つ。

遠くから見ているだけのアイでも空気が重くなった感じがしてごくりと喉を鳴らした。


その音を拾ったのか、踊り子がこちらを見て形の良い眉毛を寄せて笑みを向けてごめんねと口を動かす。

騎士は周りに気を使ってくれた踊り子に目で謝罪を送ると、これまで言い争っていた2人に視線を戻す。


「周りに迷惑が掛かっているのは理解しているかい」


問い詰められた兎少年は顔を伏せ表情は分からない。

修道士については諫める立場の者が感情を爆発させてしまったことに恥じて、謝罪をすると狩人と共に椅子に座る。


そのまま沈黙の空間が続くかと思ったアイの隣で祖父が立ち上がった。


冒険者達が何から話したものかと悩んでいるところへ向けて祖父が歩み寄っていく。


いち早く騎士の男性が気が付くも、思いがけない状況にどのように対応すべくかと悩んでいると祖父が声を掛けた。


「そうさな、まずは周りの迷惑にならんとこへ案内するでついといで」


言葉の裏にこの雰囲気を変えるため、身体を動かして移動しようじゃないかと提案し、祖父の心遣いに騎士と修道士がお礼と謝罪をし、2人の女性も頭を下げる。


祖父はお礼と謝罪を受け取ると冒険者達に部外者が居た方が落ち着くこともあるからと告げ、アイも連れて冒険者と共に個室へと向かっていった。




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