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Part.24 伝わる願い


ジロウにとって自分を認めることはとても難しいものだった。

不可解な記憶の中でも自分を褒めたことも褒められたこともない。


アイリと出逢った頃も生きていくことに必死でそんなことを考えたことすらなかった。


自分を認めることは、これまで歩んできた道のりを納得するということだ。

後悔をしないということと考えていた。


『いまさらそんなことを言わないでくれ…オレは後悔しかしてきてないんだ』


彼はもう何が正しいのか分からなくなっていた。


自分の考えが足らず仲間を殺してしまったこと。

ぬるま湯に浸かったまま行動を起こさなかったこと。


愛する者を失った悲しみ。


それらの重圧に耐えるために選んだ道は自己否定だった。

そしてアイと出逢った後は大人という仮面を強固に作り、これまでの自分を覆い被せるように考え動いてきたのだ。


それすらも間違っていると、想い人を思い出させる娘のように大事にしてきた少女に否定さたように感じてしまった。


『もうオレには何もないんだよ。取り上げないでくれ…オレの居場所を無くさないでくれ』


迷子の少年の傍には導いてくれる大人はいない。




しかし共に歩もうとする少女ならいた。




「何もないなんて言わないで」


アイは目の前のぬいぐるみを拾い上げると優しく抱きしめる。

涙はいまだ流れているが、精一杯の微笑みを浮かべて彼だと思って包み込む。


「ジロウがしてきたことは後悔することばかりじゃないよ。イッサって子もユウキさんも、アイリさんもジロウが頑張ったから幸せに…」

『でも結局は死なせてしまった!』


悲痛な声が響く。

好きな人がこんなにも辛い思いを抱えていたのを理解できなかった彼女自身は後悔と憤りを感じる。


(いまのわたしより辛い思いをずっとしてきたんだね)


だからこそ分かることがある。

同じ痛みを感じたからこそ治して上げたい、立ち直って欲しい。


そう思い彼女はより強く、優しく、安心させるために言葉でも包み込む。


「大変だったよね。辛かったよね。ごめんね、辛いことを言って」

『ア…アイちゃん、オレはっ』

「大丈夫だから、アイリさんも皆もジロウのことを責めないよ」


彼女はずるいことだと分かっていても、アイリの想いを利用してでも彼を立ち直らせたいと願って、優しく言葉を紡いでいく。


「わたしもアイリさんも、こんなにも悩んで頑張ってるジロウを情けないなんて思わない。絶対に思わない」

『ぜっ…たいに』

「絶対にどんなことがあってもそれだけは分かるよ」

『…なんで…そんなことが言えるんだ』


ジロウの問いから少しの間が空いた。


「だってわたし達は貴方のことが好きだから、弱いところも強いところも含めて貴方を護りたいって思ったから」

『弱いところも…強いところ、も?』

「全部含めてジロウなんだよ?」


ジロウはただ言葉を繰り替す。


ゆっくりと言葉を飲み込んでいる彼に向かってアイは小さく呟いていく。


「わたしはアイリさんじゃないけど」

『………』

「わたしが貴方を支えてあげたい、貴方の居場所になりたいの」


アイはぬいぐるみを離し、手を祈るように胸の前で組んで目を瞑る。

部屋に置いてある時計の針だけは規則的に音を鳴らして進んでいく。


チッチッチッ…。


数十の音を重ねた後に彼は答えた。


『オレはあいつらを後悔させなかったのだろうか。オレが関わったことを恨んでやしないだろうか』


アイは声を出さずにこくりと頷く。


『約束をしっかり守れたのだろうか』


彼女は頷く。


『オレの言葉はちゃんと、アイリに届いていたんだろうか』


肯定して欲しいと願って問いかけた疑問。


彼女は大きく頷く。


「絶対届いていたよ」

『……ぁぁ、ぅぁぁ、ぁぁぁぁあああっ!!』


彼は心の暴風を吐き出すために声を枯らす。


これまでの道のりが報われたことに喜び、伝えたかった想いが”伝わったのだ”と肯定されたことで自分を許せたのだ。


前世を含めた十数年に渡る呪縛を解いたきっかけは―――14歳の少女が抱いた恋心だった。




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