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Part.23 彼女の想い 少女の願い


『…貴族に復讐しようとしたがあと一歩で届かなかった。そしてオレは殺され、この《世界》の神によってここにきたんだ』


星の明かりが強まるまで話したのは、小さな灯が燃え尽きるまでの物語だった。


途中からアイはぬいぐるみを抱き締めながら聞いていた。


『約束1つ守れず、愛してくれた少女を護れず、復讐すらまともにできずにただ血に手を染めただけの情けない男だ』


ジロウはこの時ほど肉体が無いのを感謝したことはない。

想い人に良く似た少女に情けない姿を見せずに済んだのだから。


長くてもあと数か月後にはこの少女から離れていく。

アイがどう思うかによってはすぐに離れていくことになるだろう。


そう思っていた。


「ジロウは情けなくなんてないよ」

『…え?』

「情けないなんて、わたしは思わないからね」


ぬいぐるみに顔を伏せて力一杯抱き締めながら少女は呟いた。


汚れを知らず、殴り合いもせず、誰かを傷つけることだって嫌う少女が力強く言葉を放つ。


『しかしオレは…』

「なんで情けないって思うの?」


自分を貶めようとする彼を遮って、アイは語尾を強めて問いかける。

いまはぬいぐるみに顔を伏せておりその表情は伺えない。


『だからオレは約束すら守れないから…』

「守れないから情けないの?」


『…愛してくれた人も護れなかった』

「護れなかったのが情けないの?」


『そうだ、そうだよ。護りたい人を護れないオレは情けないだろう!?』


なぜ少女がそんなことを問いかけたのか分からないが、彼の触れられたくないモノに触れていく。


ジロウにとってアイリは大切で誰にだって渡したくない。


抗うことができるのなら死後の魂すら渡したくはなかった。


そんな相手を護れなかった苦しみは身が引き裂かれると表現することさえ物足りない。


『オレの失敗で仲間を死なせて、オレが動かなかったせいでアイリを殺して!オレが…魔法が使えなかったら……そもそも関わらなければっ』


彼は嘆く己の失敗を、行動力のなさを、自分の存在すらも否定する。

そこに普段の大人びた雰囲気はなく、ただ自分を嫌う少年を思わせた。


『それにオレの存在がアイちゃんに悪影響を及ぼすんだ。護りたいと思った彼女に良く似た君を今度こそ護れると思ったのに…こんなのってあんまりだ!』


善神ゼフィリアから受け取った知識は魂を分ける方法だけではなかった。


1つの身体に2つの魂、本来ならあるべきのない形。

生命の器はそのようには作られていないのだ。


ならば、どこかに影響が出てくる。


肉体的な影響か、精神的な影響か。


もしかしたら既にお互いに影響が出始めているかもしれない。

それでも離れるまでの覚悟を持つのにジロウは悩んだ。


神の悪戯、または慈愛なのかは判断できないが彼が求めた彼女に良く似た少女の元に辿り着いたのだ。


アイリより幼く、弱く、儚いアイ。

昔の彼より経験を積み、強く、賢く、大人になったジロウ。


出逢った直後に狼に襲われそうになったところを助けたことも大きいかもしれない。

ジロウはアイを護らなければならないモノとして考えている。


しかし人は成長していくものだ。

彼はそれを意識していなかった。


「…わたしだって怒るよ」


ぬいぐるみから顔を上げた彼女は目に涙を浮かばせているが、零さぬように堪えている。

腕に力を込めてより一層きつく抱きしめると、ばっと向かい合わせるように離した。


「もう色々怒りたいけど、何から怒っていいか分かんなくなるぐらい怒ってるけど…」


ベットの上で立ち上がり、拳を握りしめて睨みつける。


「アイリさんのことを理由にして情けないって思ってるジロウが許せない!」

『なっ…なっ……』

「アイリさんだって絶対怒るよ。話しを聞いただけだけど…分かるもん!」

『君に一体何が分かるって言うんだ!』

「分かるよ、わたしだってジロウのことが好きなんだもん!」


『そんなこと関係あるか』と叫ぶ彼に彼女はなぜ分からないのかと思う。


「どうして分からないの、アイリさんのこと好きだったんでしょ。ならいまのジロウを見てどう思うか分からないの?」

『情けないって思ってるだろうさ。何も守れなくて、誰も救えなくて、こんな根性のないオレなんて情けないって思ってるはずだ』


「………なんでそう思うの!言われたんじゃないの?誓ったんじゃないの?


友達のことを理由にするなって殴られて気付かされて、それで挫けても立ち上がって前に進み続けるんだって。必ず帰ってくるんだって!


辛いときも耐えて勉強して、お友達の病気が治せないって分かってもめげないで前に進んで…。

最後は間に合わなかったかもしれないけど、ちゃんと帰ったじゃない!


全部、全部できたじゃない。

自分が言ったことを不器用でも叶えてきたジロウが格好良くて、だからアイリさんは好きって言ってくれたんじゃないの?

だから最後に想いを告げたかったんじゃないの!?


いい加減気が付いてよ…アイリさんが可哀そうだよ。

情けないって自分を貶めるための理由に…そんなことにしないで………あげて」


堪えてた涙は零れていく。

もう勝つことの叶わない恋敵を想って次々に零れ落ちていく。


(こんなにジロウの心を縛り付ける貴女がずるい、わたしだってジロウのこと好きなのに)


それでも亡くなってしまった彼女の想いだけは大切にしてあげたい。

わたし達の好きな相手がそれを理由にすることが何より許せなかった。




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