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彼氏に殺された私の七日間。  作者: 三久田ともかさ


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私になった女

 

 今日は朝から、あの女の人が何かをしていた。

 テーブルに座って、スマホを操作している。

 私のスマホだった。


『……あれ?』

 どうして持っているんだろう。

 画面には、見覚えのある名前が表示されていた。

 私の職場。

 女の人は少し咳払いをしてから、電話をかけた。


「もしもし、お疲れ様です」

 あれ?

 声が、少し違う。

 いつもの女の人の声じゃない。

 私の声に似せているみたい。


「すみません、風邪を引いてしまって……」

 女の人は申し訳なさそうに話していた。

「はい。熱が下がらなくて……しばらくお休みをいただけないでしょうか」


 私は不思議に思った。

『……どうして?』

 風邪なんて引いていないのに。

 私は、もう死んでいるのに。

 女の人は何度も謝りながら電話を切った。


「これでしばらくは大丈夫ね」

 涼太に向かってそう言った。

 涼太は小さく頷いた。

「……悪い」

「いいのよ。あなたのためだもの」

 女の人は優しく笑った。

 涼太も、少しだけ安心したようだった。


『……ねえ』

 私は女の人に話しかけた。

『それ、私のスマホだよ』

 女の人は気づかない。

 画面を操作しながら、何かを確認している。


 友達からのメッセージ。

 職場からの連絡。

 全部、私宛てのものだった。

 女の人はそれらに返信していく。

 私の名前で。

 私の言葉みたいに。


『……やめてよ』

 そんなことしないで。

 私は、そんな返事をしたくないのに。


 ◇


 しばらくして、女の人が寝室へ入っていった。

 何をするんだろう。

 私は後を追った。

 女の人は私のクローゼットを開けた。

 服を何枚も取り出している。


『……それ、私の服』

 お気に入りのブラウス。

 去年買ったスカート。

 涼太に褒めてもらったカーディガン。

 女の人は、その中から何着か選んだ。

 そして、鏡の前で着替え始めた。


『……どうして?』

 サイズが合っている。

 少しだけ違うけれど、背丈も似ていた。


 女の人はバッグからウィッグを取り出した。

 私と同じくらいの長さの髪。

 同じような色。

 それを丁寧に被る。

 最後にマスクをつけた。

 鏡の中には、私によく似た女の人がいた。


『……あれ?』

 思わず近づいた。

 でも、鏡には私が映らなかった。

 そこにいるのは、あの女の人だけ。

 私の服を着て。

 私の髪に似せて。

 私の姿を真似している。


『……どうして?』

 女の人は鏡を見ながら、髪を整えていた。

 涼太が寝室に入ってきた。


「どう?」

 女の人が尋ねる。

 涼太は少し驚いた顔をした。

「……似てるな」

「でしょ?」

 女の人は嬉しそうに笑った。


『……涼太くん?』

 どうして、そんなこと言うの?

 私はここにいるのに。

『ねえ、涼太くん』

『その人、私じゃないよ』

 女の人は私のバッグを持った。

 私の靴を履いた。

 そして、玄関へ向かった。

 涼太も上着を羽織る。


「じゃあ、行こうか」

「うん」

 2人は並んで玄関を出た。

 ガチャリ。

 鍵が閉まる。

 部屋が静かになった。

 私は玄関の前に立っていた。


 どうして?

 どうして、あの女の人は私の格好をしているの?

 どうして、涼太は何も言わないの?

 どうして、私の服を着ているの?


『……涼太くん』

 返事はない。

 私はもう一度、玄関の扉を見つめた。

 あの女の人は、私の姿をして外へ出ていった。

 私の名前を使って。

 私のスマホを持って。

 私の彼氏と一緒に。


『……私のなのに』

 誰にも聞こえない声で呟いた。

『それ、全部、私のものなのに』


 その日、2人はなかなか帰ってこなかった。

 私はずっと、玄関を見つめていた。


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