第429話 月らしい
二人並んで席に着く。
まぁ、ばらばらで座るわけはないから当たり前なんだけどね。
始まるまでの間、思わずきょろきょろ。
「白川はプラネタリウムとかはあまり行かないのか?」
う。
まっとうな質問です。これだけきょろきょろしてればそりゃぁね。
「え、ええ」
えーっと。白川璃々亜は本当にプラネタリウムあんまりいかない人間だったのかな?
中学まではどうだったんだろう?
ボッチな璃々亜。唯一の楽しみは綺麗な星空を眺めること。だけど都会では星は少ししか見れない。
だから、毎週プラネタリウムに通い、作り物の星の灯りに包まれる。
いつか、いつかきっと、
「本物を……」
と、思いながら……。
ぐおおおう!
璃々亜(前)、おまえってやつは、かわいそうす。切ないっす。
新生璃々亜の私が、寂しかった璃々亜にいっぱいいっぱい友達を作ってあげるからね?
……まぁ、全部私なんだけど。どうなんだろ。記憶がないだけで実は別人格っていうか別人として存在してたのかな?もしそうだったら……私のせいでその人格が追いやられた?
それとも、ゲームの世界だから中身はプログラムだから気にしなくていい?
うーむ。もう、入ってしまえばゲームの中じゃなくて、単に並行世界的な本物なんだよね。ここにいる人たちは生きてる。プログラムじゃない。
「本物を?」
田中くんがぽそりとつぶやく。
「本物……」
そっと田中くんの手に触れれば、温かい血の通った手だ。
「そうか、白川の場合はいろいろな場所で本物の満天の星空見られるんだ」
う?
「プラネタリウムじゃ物足りないかな?」
えええ?
話があらぬ方向に?
「いえ、そんなことありませんわ」
田中くんの中で璃々亜はどんな人間だ。プラネタリウムに一人寂しく通うんじゃなくて、本物の満天の星空をいろんな場所で?
ふあっ。
璃々亜をお嬢様だと思っているってことは……。
なんか星空がきれいなところに別荘があるとか?
……あるかもしれない。
海外のリゾート地で空気が澄んでて星空もきれいなところに旅行に行くとか?
う、うん。行くかもしれない。
そ、そうか。田中くんの中ではそういう図式か。
でなくって、えーっと。
「今とてもわくわくしておりますわ。あそこの中央に置かれた機械から投影されるんですよね」
田中くんがふっと表情を緩めた。
あれだけ興味深々できょろきょろしていた姿を思い出したのだろう。
プラネタリウムより本物の干しとか思うなんてこれっぽっちも思わないよね。
セーフ。セーフ。
きょろきょろしてた私、グッジョブ!
「このプラネタリウムは、スタッフが生でいろいろ説明してくれるんだ。あ、もちろんプログラムによってだけど」
へー。そうなんだ。
「詳しいんですわね?田中くんはよくプラネタリウムを利用するんですか?」
「あっと、全然詳しくはないよ。空を見上げたって、オリオン座さえ分からない」
田中くんが頭をかきかきする。
「では、私と同じですわね。星座といえば、占いくらいしかわかりません。夜空を見上げてもきれいだなぁとしか思えません」
「夜空……きれい……か。月が、きれいですね」
はい?
「ああそうでしたわ。星だけじゃなくて、月もきれいですわよね。満月もいいですけれど、三日月も好きですわ。そういえば、プラネタリウムでは月の出番はありませんよね」
危ない、危ない。
思わず、月がきれいと言えば、お月見団子。あれ、好きなんだよなぁ。
あんこやきなこのついた団子もいいけれど、あの団子自体にほんのりと甘みのついた団子……いくつも食べれる。
うっかり、花より団子ならぬ、月より団子な璃々亜をばらしてしまうところでした。
危なかった。
「そうだね。星はよく見えなくてもきれいな月は都会でもよく見えるから」
そうそう。
「月見団子買って、十五夜には月見を毎年してるよ」
おー、そうなのか!田中くん一家も月見団子推進派ですか?
っていうか、今なら月見団子の話してもいいよね?
「月見団子、おいしいですわよね」
「ああそうだな。たまにしか食べられないから特別感もあるからかな」
にっと田中くんが笑って、大きな手で私の頭をぽんぽんと叩いた。
んご?
きょとんと頭をかしげると、灯りが消え始めアナウンスが流れた。
「始まるみたいだ」
おっと。始まる、始まる。
椅子を倒して半球状の天井を見上げる。
夕暮れの街の様子が映し出され「空が次第に暗くなっていきます。そして」とスタッフのアナウンスとともに、きれいな月が映し出された。
あ。
ごらんいただき「ああああーーーーーーっ!」ってなっている皆様ありがとうございます。
きょっとーんとしている方は、「月が綺麗ですね」で検索検索!
そして「あああああーーーーっ!」ってなってください。
璃々亜め!




