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【書籍化】オタクガール、悪役令嬢に転生する。【web版】  作者: 富士とまと


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第290話 ファミレスを見つけたらしい

 ぎゃーっ!

 私の優秀でポンコツな脳みそが、勝手に脳内編集しちゃった。違う、違う、歩くのが好き。

 歩くのが好きって言ったの!

 田中くんは、歩くのが好き。

 やばいっ。赤面するっ!

 手をつないでなくてよかった。手汗が!手汗が!って、あー、田中くんの服に汗が染みこんでここだけ色かわっちゃうかもっ!

 どうしよう、手を放した方がいいかな……。いや、でも、こんなパニック状態で放したら、うっかり迷子になりそうだ。

 って、違う!迷子対策じゃないよっ、悪い人に絡まれないように安全対策だっての!私、迷子になったりなんかしないもんっ!

 戸惑って、挙動不審に顔を動かす私。ふと、目に入った田中くんの顔も赤かった。

 あ、うん。

 そっか。そうだよね。

 変な意味じゃなくても、青春真っ只中な私たちだもん。好きって単語は結構危険。

 はー、すーはー。

 落ち着け。

 私の方がおねぇさんなんだから(っていうか、前世年齢でいえばおねぇさん以上おばさん以下だ。……おばさんじゃないもん)。

 とにかく、えーっと、なんだっけ。

 そうそう、うどん屋探すんだね。

「あっちの方へ行ってみましょう」

 ぐいぐいっと田中くんのシャツを引っ張る。

 照れ隠しのため、ぐいぐいとシャツを引っ張ったまま歩き始めた。

 あれ?これって「ほら、田中、来なさい!」って下僕にしてるみたいに見えたりしないか?と、一瞬青ざめるも、すぐに田中くんは私の横に並んだ。

「これさ」

 田中くんの手には、師匠からもらった本の修復講座のチラシがあった。

「僕は行けないけど、白川が本を治せるようになったら、頼んでいい?」

 田中くんの本の修復を私が?

「ええ、もちろんですわ!」

 いつもお世話になっているんだから、それくらいどってことない!任せておくれ!

 なんといっても、私は師匠の下で虫食い修正までできるほど修行を積む予定だ。

 初心者講座を終えたばかりのペーペーの腕ではなく、超一流の本の医者……いや、ドクターxとして活躍する予定なのだ!

 「私、同人誌の修復を失敗しませんから」とか言いながら、執刀するのだ。

 むふふんっ。

 あ、破滅後の将来は、同人誌の本のお医者さんのお店とか開いてみようかなー。お客さんくるかな?……っていうか、生活できるだけの収入が得られるか謎だわ……。無理。破滅後の仕事は、もうちょっと別のものにして。

 同人誌の修復はあくまで趣味。

 あ、そうだ。同人誌即売会にサークル参加してみるってのどうだろうか?「同人誌のお医者さん」ってサークル名でスペースとって。

 短時間でできる修復を請け負うの。

 ……楽しそう。

 きゃはっ。もしかして、歴史ある同人誌にお目にかかれるかもしれないっ!

 おおう、楽しそう。


「あそこうどん屋かな?」

 田中くんがある店の前で足を止める。

 木戸があって、暖簾があって、手打ちって書かれてて……。あー、うどん屋っぽいけど、ちゃんとしたうどん屋っぽい。

 あたしが食べたいうどんは、セルフうどんなんだよなぁ。

 ちゃんとしたうどんなら、ほら、いつでも食べられる感じするけど……。

 真っ赤なウィンナーを串に刺した天ぷらとかそういうジャンク感のあるうどん屋には、こういう機会でもなければ……。そういう店がいいんだよねぇ。

 でも、あんまりわがまま言えないよね。

 と思った私の目に!

「ファミレス……」

 みっきゅんと最後に行ったファミレス。もちろん、店舗は違うけど、同じチェーンの……。

 最後の最後……何を話したっけなぁ。

「ファミレスにする?」

 田中くんが私の視線の先に目をやる。

 イベントの帰りに寄ったファミレス。その日の戦利品についていろいろと話をしてた。

 それから、バスケの王子様の今後の展開予想とかしてた気がする。ああ、新しく発売されるBLグッズ情報交換とかもしたかな。

 で、次のイベントはいつ行くかって約束と……。

「白川?」

 田中くんの驚いた声に、知らない間に涙がこぼれていたことに気が付いた。

「どう、どうした?」

 田中くんが、慌ててポケットからハンカチを取り出す。うわー、普通にきれいなハンカチが出てきた。

 男子って、くちゃくちゃなハンカチがポッケに入っていると思ってたよ。

 そういう同人誌ネタあったし。

 都キャプテンが水かぶっちゃって、京様がハンカチを取り出すんだけど、ぐちゃぐちゃでさ。

「ああ、ごめんっ」

 京様がひっこめようとしたハンカチを、都キャプテンが奪い取るんだ。

 で、濡れたとこを吹かずに、鼻に押し当てる。

「京の臭いがするね」

 ってな。ふふふ腐。


「え?あれ?笑って?」

 あ、腐な思い出して笑ってた?

 田中くんがまた驚いた声を出した。

 そりゃそうか。涙流してると思ったら笑ってるとか。

 ごめんごめん。情緒不安定でした。

「えへ、お腹すいてきたね。ご飯食べよう!」

 田中くんの服の裾を引っ張って、うどん屋の暖簾をくぐった。

 あのファミレスは……まだ、行けない。

 行きたくない。

 みっきゅんの思い出に、思い出を上書きしたくないんだ。

 あのファミレスは、みっきゅんと最後に行ったっていう思い出の場所のままにしておきたい。

 もし、また行くことがあるならば……。同人誌を持って、一人で行くよ。

 ああそうだ。みっきゅんとなずけたぬいぐるみ(嘉久にもらった白猫財布だが、あれは財布にはカウントしてない)を連れて行こうかな。

 ぬいぐるみに語り掛けながらBL同人誌開いた客……。

 うん、めっちゃ怪しすぎる。


ごらんいただきありがとうございます。

璃々亜も、少しだけしんみり。

こっちの生活に慣れてきて、いろいろと切ない気持ちにもなりまする。

っていうの、書いておかないと、みっきゅんがかわいそうすぎるっ!

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