第289話 うどん屋へ行くらしい
「今の人は?」
あ、そっか。わからないか。
「お菓子の部長の章子先輩。……というか、生徒会副会長の東章子先輩」
私の言葉に、田中くんが、マジで?って顔をした。
うん。マジです。って顔してうなづいておく。
私は、副会長姿(女性)→パティシエ姿(イケメン女子)→さっきの姿(男装イケメン)と段階を踏んでみてるからあれだけど……。
間を飛ばして、女性→男装メイクばっちりイケメン姿だと、びっくりするよねぇ。
あコスプレで男装メイクな人を見慣れてるから、よけいにビックリしなくてすんだのかな?
「そろそろ、ご飯食べようか?」
田中くんが、手を差し出す。
そして、すぐにひっこめた。
「誰が見てるかわかんないもんなぁ……」
私、誰に見られたって別に平気だけど! と思ったけど。
違う。
うん、田中くんが迷惑しちゃうなら、全然平気じゃない。
そうだよね。章子先輩みたいに声かけてくれる知り合いばかりじゃない。
見て「うわー、孤高の女帝が野球部田中を引っ張りまわしてる!」とか思う人だっているかもしれない。
って、誰が孤高の女帝やねん! ……いやいや。自分で言ったんだから、それは置いといて。
「田中、下僕かWWWWW」って誰かに田中くんが馬鹿にされちゃうかもしれない……。
それは、困る。うん、困る。
……。
手、寂しいとか思っちゃって……ない、も……ん。
田中くんが、さっき私がつかんでいた服の裾をすっと差し出した。
「え、えっと……」
言いにくそうに田中くんが言葉を濁す。
えへっ。
いいの?つかんでて……。
これなら下僕とは言われないね。
ぎゅっと田中君の服の裾をつかんだ。
しわになっちゃうよなぁ……ごめんね。そうだ、今度、しわになりにくい生地の、私がつかみやすい長さの服をプレゼントしようかな……。
一緒に出掛ける時に着てきてねって頼んで……。
確か、形状記憶なんとかって元の形に戻る布とか、そもそもしわになりにくい布ってあったよね。なんか、アニメ雑誌のコスプレの作り方の記事で見た気がするぞ。
コスプレかぁ……。そういう布買って自分でシャツを縫うなんて……できたらかっこいいけど、無理だよなぁ。
いや、待て、もし、シャツ作りを趣味にすれば、家でミシンを踏み踏みしていても「またシャツを作っているのかい?」で済むんじゃない?
本格的なコスプレ作りとかできちゃうんじゃない?
おおお!
そうすれば、変装イベントの幅も広がるっていうもんじゃない?
……いや、顔出しNGだから、キャラの選択の幅が広がらないか……。はー。
「何、食べる?ラーメン?」
田中くんが、ニッと笑う。
あ、そうだ。前に、一緒にラーメン食べに行ったんだ。2回も。
ラーメン好きだと思われた?
決して、私はラーメン好きというわけではなく、ジャンクなフードであれば何でもござれでございますことよ!
……そう、ここで、ジャンクフードの定義をもう一度確かめておかなければならない。
辞書的な意味は「栄養価の低い食べ物」だそうで、代表的なものは、ハンバーガー、カップラーメン、お菓子となっている。
栄養価が低いならさ、普通のラーメンもそうだし、ピザだってそうでしょ。うどんもそうなる。そばも。ところが、一般的にはジャンクフードって言わない。おにぎりだって、塩むすびだけなら、栄養価低いと思うけど、おにぎりをジャンクフードって言ったりしないんだよなぁ。
うーむ。
いまいち、わからん。
まだ、ハンバーガーはパンと肉と少しの野菜が取れるだけ、塩むすびや素うどんよりも栄養価がありそうなのにね。
……ああ、素うどん……。
そういえば、最近うどんを食べてない。
「うどん」
久しぶりに食べたいなー。天ぷらとか選んで自分で取る形式のあれ。
お盆にお皿載せて、順番に取っていくと、つい、取りすぎちゃって反省することもしばしば……。
「ん?うどん?わかった。うどんにしよう!」
はい?
田中くんが、うなづくとうどん屋をスマホで検索始めた。
あー、歩きながら店を探すっていう時代は終わったんだなぁと、なんだかしんみりしちゃった。
私も前世からすでにスマホは使っていたけれど……。
スマホを手にしたのはもう20代も後半だったから、新しいものを取り入れても、それほど生活スタイルは変わらなかったんだよね。
店といえば、いつも行く店とかある程度決まってたから、旅先でもないかぎりわざわざ検索したりしなかったし。
みっきゅんとお出かけは、ほぼイベントがらみだったってのもあるけど……。
イベント帰りに寄る店は、おしゃべりで長居してもオッケーなフリードリンクあるファミレスが多かったし。
あ、もちろん「今日はうどん食べに行かない?」っていうのもあった。あったけど、うどん食べに行ったあと、もちろんファミレスおしゃべりタイムへ移行してた。
で、うどん食べに行こうってなっても、やっぱりチェーン展開してる、近所の店だったりするから……。
スマホで店を調べるなんてこと、なかったなぁ。
時代は変わった。
と、不思議な感じがして、スマホで店検索をしている田中くんの手元をじーっと覗き込む。
「あ、ごめん、少し待たせちゃう。このあたりのうどん屋とか、詳しくなくて」
田中くんが、私の顔をみて、申し訳なさそうな表情をする。
……調べなくても、秋葉原まで足を延ばせば、前世と同じであればうどん屋がどこにあるか知ってるよ……とも言えない。
田中くんは、すぐに視線をスマホに戻して、真剣な目で神保町近辺のうどん屋情報を集めてる。
くいくいっと、田中くんの服の裾を引っ張っぱる。
「ん?」
「一緒に、歩いてさがしませんこと?私、田中くんと街を歩くの好きです」
目的の店に向かって一直線に進むよりも、いろいろと見て歩く方が絶対楽しいよね。神保町とか秋葉原に近いけど、全然来た事なかったから。
スポーツ用品店多いというのも知らなかったし。古書店が多いのは知識としては知ってたけど、実際見たことなかったし。
「あ、う、うん。僕も白川と一緒に歩くの好きだよ」
へ?
わ、私が好き?
いつもありがとうございます。
あっという間に10月です。
この連載スタートしたのが10月23日なので、あともう少しで1年たちます。
ええ、ここで、つっこみ入りますね……
作中では、まだ4が……げふっ、ごふっ




