閑話 璃々亜小学1年生
4月の中旬。小学校に上がってからの初めての遠足の1週間前だった。
「遠足はグループごとに行動してもらうので、5人ずつのグループに今から別れてもらいます」
先生の言葉に、児童たちはグループを作るために席を立ち、それぞれ親しい人の元へと寄って行った。
ああ、どうしましょう。
私、まだ友達らしい友達がいないのに……。
璃々亜は席に座ったまま、小さな手を膝の上でにぎりしめた。
この学園には幼稚舎もある。幼稚舎からの仲良しグループがすでにいくつかあった。ため、比較的グループはすんなりできていった。だが、璃々亜は残念ながら幼稚舎からの持ち上がりではない。別の幼稚園から入学をしたのだ。それというのも、留守がちな両親が、子供達に不自由がないように、寂しい思いをしないようにと、保護者参加の行事が少ない幼稚園を選んだからだ。参観日に発表会……毎月のようにこの学園の幼稚舎では、何かしら保護者の参加が必要だった。
世界中を仕事で飛び回る両親には、とてもすべての行事に参加してあげることはできない。となれば「なんで璃々亜のお父様やお母様は来てくださらないの?」と璃々亜が寂しい思いをするだろうという親の気遣いであった。
「あの、璃々亜様、ご一緒しませんか?」
声がかけられ、璃々亜はうれしくなって顔をあげる。
出席番号順に座った席で隣同士になった子だ。
まだ、友達というほど親しくもないけれど、クラスの中では比較的良く話をする子。
その子が、別の友達2人と3人集まっている。
「はい、お願いします」
よかった。
うれしい。
これで、璃々亜を含めて4人のグループが出来上がった。残りは一人である。
教室の中を見渡すと、一人でいる子がクラスの隅にいた。
あの子を誘えば、5人のグループが出来上がる。……でも、私が勝手に声をかけるわけにもいかないよね……。
璃々亜が、3人にどうしようかと相談しようかと思ったときに、声がかけられた。
「璃々亜様、あの、同じグループにしていただけませんか?」
横に立っていたのは、長い髪の毛を左右に分けて三つ編みにしている子だった。
確か、幼稚舎からの持ち上がりで中のよい友達もいたのではなかったかしら?と、疑問には思ったけれど、その儀もんはすぐに別の子の「これで5にんだね」という声に掻き消された。
それから、しばらくして教室の隅の子はどうなったのかな?と見ると、まだ一人でいた。
あの子も、別の幼稚園から来た子かな?
名前は何て言うんだったかなぁ……。
璃々亜は、人の名前を覚えるのが少し苦手だった。だから、その子のことは気になったけれど、それよりも同じグループになった子たちの名前を間違えないように心の中で確認し直すことで、すぐに忘れてしまった。
黒板に先生がグループごとに生徒の名前を書き出す。
ああ、よかった。これで同じグループの子の名前が確認できた。
白川、吉永、須賀、陌村、山根。
あれ?声をかけてくれた子は吉永さんだけど、あとは誰が誰だったかしら?
皆様下の名前で呼び合うことが多いから苗字はわからないわ……。私もいきなり下の名前で呼ぶのはさすがにずうずうしいよね?
授業が終わり、放課後。
璃々亜は皆が帰った教室に戻ってきた。
机の隅に、生徒の名前がフルネームで書いてはってあるのだ。それを見て、名前を確認しようというつもりだ。
迎えに来た運転手の蜂川さんには、教室に忘れ物をしたといって嘘をついた。
教室のドアの前に立つと、人の話し声が聞こえてきた。
いや、生やし声ではなく、泣き声だ。
璃々亜は、教室に入るに入れなくて立ち止まる。
「裕子様と同じグループになりたかったですわ……」
「私も、紗耶香様と一緒がよかったです」
「ごめんね、一緒のグループになれなくて、ええーん」
仲が良い友達と同じグループになれなくて泣いているのか……。
うまく、5人で別れることができなかったからかな?
「うん、でも、仕方ないよね、親の命令でしょ?」
「そうなの。お父様が、どうしても白川様と一緒のグループになって仲良くなれって……」
璃々亜は、その言葉に体が凍りついた。
命令?
どういうこと?
私と命令で同じグループになったの?
「本当は、裕子様も一緒のグループになれればよかったのですけど……ひっく、もう、白川様は4人で集まってたから……」
「うん、わかってるよ、わかってる。見てたもん……仕方ないよね、仕方ないよ……だって、仲良くしないと親が困るんでしょ?しょうがないよ……」
親が困るから、私と仲良くしてくれようとしてるの?
私と、友達になるのは、親の命令なの?
璃々亜は、教室に入らずに、その場を後にした。
私と友達になるのは、私と友達になりたいと思ってくれるからじゃないの?
親の命令、仕方がない、しょうがない、義務だから……。
璃々亜の目からは、涙がこぼれていた。
「お嬢様、どうなさったのですか?」
運転手の蜂川さんが、心配して声をかける。
「お友達じゃないの……」
「え?」
「親に言われたから、私と同じグループになるんだって……」
断片的にしか言葉にしない璃々亜の言葉を、運転手の蜂川さんは何とか理解しようと勤めた。
だが、何があったのか理解することはできなかった。それでも、なんとかお嬢様を慰めようと言葉を探す。
「私も、親として子供に言いますよ。もし、一人で寂しそうな子がいたら、どうしたの?大丈夫?って声をかけてあげなさいと」
「え?」
「みんなと仲良くしなさいって、親なら誰でも言いますよ。もちろん、いじめるような子と仲良くなる必要はないですけどね。幼稚園の先生もいいませんでしたか?みんなで仲良くしましょうねと」
「あ……」
そうだった。
一人でいたら、声をかけてあげましょうって……。
璃々亜は、教室の隅で一人で座っていたクラスメートの姿を思い出した。
あそこで私が声をかけていれば……。
そうだ、今からでも遅くないんじゃないかな?
裕子様と紗耶香様は同じグループになりたかったんだよね。
だったら、一緒のグループにはなれないと言ってグループを組み直してもらうことは……。そうすれば、二人は同じグループになれるだろうし、教室の隅のあの子とは、友達になれるかもしれない。
御覧いただきありがとうございます。
本日璃々亜の小学校1年生時代のお話しですが……。あれ?どこかで見た名前が……
しぃーーーーっ!気がついてもそっとしておいてあげてっ!
どうやら昔から人の名前が覚えられないことが発覚。
さて、先日お知らせしました通り、日曜に加えて祝日も更新をお休みさせていただきます。ゆえに、19日はお休みです。
もうすぐ田中ターン。




