第273話 待っていてくれたらしい
「うわー、今日はちょっと遅くなっちゃったねー」
話し合いが白熱したので、部活が終わったのはいつもより遅い時間。
部活棟の廊下の窓から外を見る。照明に照らされたグラウンドにはすでに人の姿はなかった。
あ、野球部も終わってるんだ……。
シフォンケーキの入った箱に視線を落とす。
もう、帰っちゃったかなぁ……。毎回必ず作ったお菓子を確実に渡すなんてそこまでの約束はしてないしなぁ……。
ズキン。
あー、うん、悲しいなぁとか、思ってもしょうがないよね。
おいしそうに食べてくれる人がいないと、やっぱり悲しいもん……。
管理棟の入り口に降りてくと人影があった。
「今日は時間のかかるお菓子作ったの?」
田中くんだっ!
待っていてくれたんだ!
「そうでもないよ、K3の話し合いが長引いたんだ」
あ……。
隣にいる芽維たん……。
そうだった。
田中くんと芽維たんは家が近くだから……。
田中くんは、私じゃなくて、芽維たんを待っていたんだよね……。
芽維たんを、送るために……。
……。
「あのさ、鈴木、ちょっといいかな?」
田中くんが、芽維たんに声をかける。
はっ!
田中くんの後ろにもう一人、誰かいるっ!
いつの間に現れたの?
あ、いや、初めからいた?私が、田中くんの姿しか認識できてなかっただけ?
「野球部で一緒の奴なんだけど、鈴木に話がしたいって……」
うおー、何?
いったい、何ごとが起きるの?
「えっと、話って?」
芽維たんもびっくりしてる。
「はっ、初めまして、や、野球部に所属してる、」
と、背の高い細身の生徒が緊張気味に自己紹介を始めた。
「白川、ちょっと離れようか」
田中くんが、私の腕を掴んで、部活棟を出て、二人の姿が見えない場所に移動する。
え?
二人きりにしてあげるってこと?
な、な、まさか……。
あれって、まさか……!
「田中、俺、鈴木さんのことが好きなんだ、紹介してくれよ」
っていう、それですか?
ああああっ、こ、こ、告白とか?
嘘、マジで?本当に?
芽維たん可愛いもんね、そういうこともあるよね……。
でも、だけど、あれ?芽維たんどうするんだろう?芽維たんはヒロイン候補なわけだし……。
さっきの人、攻略対象っぽくは見えなかった。いや、攻略対象だったとしても、初めての接触で、4月の序盤から告白も変だけど……。
あ、これは、もしかして……。
「付き合ってください」
「ごめんなさい」
「何で、別に付き合ってる人とかいないんだろう?」
芽維たんの腕をつかむ男。
「あの、ごめんなさい」
「庶民の癖に、俺を振るとか、ありえない。付き合えって言ってるだろ」
乱暴を働こうとする男。
「や、やめてください」
そこに、攻略対象が登場!
「何をしている!」
っていう、フラグ?
現れるのは誰だろう?
嘉久?
前に、私が田中くんに脅されてるとか勘違いして助けようとしてくれたもんね。
きっと、こういうトラブルではちゃんと助ける男だ。
あ、まぁ、兄だってそうだよな。ちゃんと人を助ける人だと思う。あと、剣崎徹も……そういえば、お茶会部でひと悶着あったときにビシッと言っていたよねぇ。ちゃらちゃらしてそうな見かけだけど、たぶん閉めるところは閉めるんだろうなぁ。攻略対象ってそういう人間ばかりだしな。
あ、違うか。
中には「何で俺がそんなことに関わる必要があるんだ」って素通り俺様キャラみたいなのいるよねぇ。
で、ヒロインから「助けなさいよっ!」みたいに突っかかられて、そのうち人を助ける男に成長するみたいなパターン……。
……。
もし、そういう男とのフラグだとしたら……。
攻略対象候補がまた増える!ぐあああっ、しかも、芽維たんとのフラグがしっかり立つとめんどくさいー。
「どうした、白川?」
うんうん、唸りだした私に、田中くんが声をかけてくれた。
「あ、うん、えっと、あの方、芽維さんに何の御用かと思いまして……」
「あーそっか。気になる?だったら、戻って話を聞こうか?」
田中くんが二人の元に戻ろうとするのを引き留める。
「そ、そんな、邪魔になると思ったから、田中くんはここへ来たのでしょう?」
「ん、いや、どちらかと言えば、邪魔なのはあっち」
「え?」
「いや、何でもない」
御覧いただきありがとうございます。
田中くん、思うようになりませんね。まだ日曜がありますよ!むふっ。
男子生徒はモブなので名前を付けるまでもないと思っていましたが、名前がないと、書きにくい……どうしたものか……。




