第255話 壁ドン!らしい
「ありがとうございます、璃々亜様!また何か動きがあればお知らせいたしますね!」
なぜか、相原さんにお礼を言われる。
「いえ、こちらこそありがとうございますわ」
情報ゲット。
まさに情報戦。
田中くんが、スパイに気を付けたことを思い出す。
あれ?
文芸部の相原さんがまるで、私のスパイみたいになってるぞ?
いや、私、スパイしてくれなんて頼んでないからね!卑怯な手を使って情報集めようとなんてしてないんだから……。
……。
単に、友達思いの友人がいたってだけだからね!
……。
よし、友達の厚意なんだから、無駄にするわけにはいかないざんす。
人がいないかキョロキョロしてから、何事もなかったかのように3人で教室に向かう。
さて、この情報を無駄にしないようにって、どうしたら無駄にならないの?
?
ん?
えーっと……?
分からないなぁ。
「あっ!」
教室に入ってくる田中くんの姿が見える。
「ごきげんよう、田中様。少しお話があるのですが、よろしいですか?」
「ああ、白川おはよう。もちろん、えーっと」
田中くんが、図書委員の話だと察知してくれたようで、鞄を机の上に置いてすぐに二人で教室を出る。
スパイに探られないように内緒の話ができる場所……。
この間の社会科資料室……は、弟が来る可能性があるのでダメだ。
とりあえず、さっき相原さんと話をした場所でいいかな?
移動する。
人の姿が次第にまばらになり、行き交う人がいなくなる。
さ、柱の陰になっているところに滑り込んでちょっとだけ頭を出して廊下に人影がないか確認。
ひっ!
やばい!
まさかのまさか、ピンポイントに図書委員の3年生の姿が!
慌ててぺたりと廊下の壁に背中をくっつけ、ぼんやりしてた田中くんの腕をひっつかんで引っ張った。
「ちょっ、」
いきなり引っ張られてバランスを崩した田中くんが、廊下の壁に手を付いた。
倒れて、私をつぶさないようにって腕を真っすぐ伸ばして壁に両手を……。
「ふおわっ!」
こ、こ、こ、この体制って……。
廊下の壁と、田中くんに挟まれた、この体制って……。
伝説の、そう、伝説の……。
か、べ、ど、ん!
妖怪とかじゃないよ、乙女の憧れ、壁ドンです!
丼じゃなくて、ドンッ!
あ、いや、体制は確かに壁ドンだけど、でも、まぁ、私が引っ張ったがための事故的出来事なので、本物じゃないけどさ。
田中くんが、私に壁ドンとか、うん。ないよねぇ。
壁ドンしちゃうような性格じゃないしね。田中くん。
……。嘉久なら、壁ドンとかも何も考えずにしちゃいそうだけどさー。
「ご、ごめっ」
田中くんには、この体制が非常に不本意なのか、慌てて手をどけようとした。
「待って、今どかれると、見つかる!」
「見つかる?」
ちょうどいい具合に田中くんの体で私の顔は図書委員の3年生からは隠れているだろう。
図書委員である、田中くんと私が人目を避けて一緒にいるところを見られたら、間違いなく何か探りを入れてくるはずだ。
いらぬ情報を相手に与えてしまうなど、間諜として失格なのである!
あいや、誰が間諜やねん。
「今、3年の図書委員が通り過ぎるから、もう少しこのままで……」
「あ、ああ、分かった。もう少し、このまま……」
田中くんが小さな声で呟いた。
ふと、田中くんの顔を見れば、耳が赤い。
うわー、そうだよね。壁ドンなんて、キャラ違いな体制させちゃってるんだもんっ。申し訳ない!
図書委員がスルーしたとしても、これ、野球部とかに見られたら後でからかわれる案件だったりしない?
ご、ごめん、本当にごめん。えっと、どうしよう……。
そうだ、何も田中くんに隠してもらわなくても、私が自分で顔を隠せばいいんじゃないのっ!
両手で顔を覆う。
よし、これで問題ない。
これならば、よほど親しい人間じゃなきゃ、私だと分からないだろう。うむ。
田中くん、もういいよ、と、言おうとしたら……。
ダンッ!
バシッ!
っていう音。
それから、顔を隠していた手をつかまれた。
ぎゃぁっ!
顔がバレる!
抵抗を試みるも、顔からあっさり手が引き離された。
「もう大丈夫だ」
って、大丈夫あるかいっ!
って、ちょ、待て、待て、この声……!
たーなーかーっ!




