第252話 嘉久のあれは好きらしい
「ああーっ」
嘉久の叫び声。兄がどうやらスプーンのオムレツを口に運んだらしい。どんだけ悔しがってるんだろうか……。
ああ、それにしても、京様ヴォイスの叫び声とか。録音させていただきました。脳内変換で「あっあーっ」に変更清み。
「嘉久様の分は、新しく作りますから、お待ちくださいませ」
どうせ卵白泡たてる練習だし。
卵を割って、ボウルに、おいこら、復活したのはいいが、卵に手を出すな、嘉久!
今度こそ上手に割れる気がするって?兄ー、出番ですよっ!って、兄がオムレツを食べていて役に立たない!
嘉久の手が、卵に触れる、やばいっ!
「あ、そうだ!」
寸前で手を止める嘉久。
「ちょっと待ってて」
背を向けて白川家を出て行く嘉久。
待ってろ?
いや、泡立てるよ。
シャカシャカ。
シャカシャカ。
おお、さっきより腕が楽。コツをつかみかけている、私!心なしか、泡立ちも早い気がする。
そうだ、今度から練習するときに、タイマーで時間を計ってみよう。そうすれば、成長具合が分かるよね?
うん。いい感じに泡立った。
ここに卵黄を混ぜるんだよね。
「璃々亜、コレも混ぜて焼いてみて!」
ふおっ、手渡されたのは、明太子!
これを取りに行っていたのか?
明太子の粒を取り出し、まず黄身と混ぜてから、メレンゲの泡をつぶさないようにゆっくり混ぜる。
そして、焼く。二つ折りにして皿に盛る。
そこにすかさず嘉久が、マヨネーズを……ん?マヨネーズじゃない。少し黄色が濃い。
え?チューブに入った、チーズソース?
ってことは、これ、チーズ明太オムレツモンサンミッシェル風ってこと?美味しそうなんだけどっ!
「味見しないのか?」
嘉久が私の顔を見る。
するよっ!っていうか、嘉久にあげなくちゃいけないの?えー。
チーズ明太、絶対美味しいに決まってるじゃんっ。
「では、半分」
ざっくり半分スプーンで割って、別の皿に移す。
「えっ、いや、璃々亜、」
嘉久が、すんごくがっかりした顔を見せた。なんだよ、半分とか持ってきすぎとでも言うのか。知らん。作ったのは私だ。
あ、明太子とチーズソースの提供は嘉久か。……知らん。味見だ、味見。
もぐっ。
ふあっ、うんま。
明太チーズでふんわふわ。何これ。いや、新食感だわ。この発想、嘉久、お前天才だな。
って、さらに醤油を少し垂らす?嘉久、お前……ネ申じゃない?
嘉久の味覚センス、好きだわ!めっちゃ好き!
醤油を垂らしている嘉久が顔を上げて、目が合った。
「うわっ、いや、違うんだ、璃々亜の料理が不味いから醤油が必要とか、そういうんじゃなくて、明太子とチーズとバターと醤油がおいしそうだと思って……」
ああ、そういえば。料理の味をみずに、何にでもいきなりソースをかけるとかダメなんだっけ?私は別に平気だけど。
むしろ、この場合は醤油をかけるのは……。
「好き……」
な味になるはず。
とはいえ、もう私の手元の皿は空。
「す、す、す……」
嘉久が何やら、酢を欲しがっている。
いや、この場合、酢はかけるととんでもない味になると思う……。
思わず眉根が寄る。うへっ。どうした、嘉久。酢なんて、お前らしくない発想だ。
兄が、嘉久の肩をぽんっと叩いた。
「好きにすればってことだろ?」
若干、イライラしているような気がするのは、明太チーズオムが自分だけ食べられなかったからだろうか?
「なぁ、璃々亜?」
ん?
好きにすれば?
「ええ、そうですわね」
酢をかけて変な味になろうが、私の知ったことではありません。
さてと。どうしようか。泡立てる練習……。
2回して、少し上達したような気はする。
だけど、腕が疲れているのも確かだ……。いや、やっぱり、もう1度だけ頑張ろう。なんかコツをつかみかけてきたし。
うん、でも、少し休憩。まずは宿題を片づけてからにするか。
使ったフライパンなんかを洗って片づけようとしたら、兄の手が伸びて来た。
「片付けるよ」
ふおっ、兄、できる男は違う!この気遣い!
兄に洗い物はお願いして、宿題、宿題。
宿題を終えたころには、夕飯の時間近くになっていた。
泡立て練習の続きは……また明日でいいか。卵の賞味期限はまだ大丈夫だし。
そうだ、明日の朝食がご飯だったら、メレンゲ卵かけご飯に挑戦してみよう。うん。
「早間さん、明日の朝食は和食かしら?」
夕飯を運んできてくれた早間さんに尋ねる。
「明日の朝食でございますか?たしか洋食かと。和食がよろしければ、変更するようにシェフにお伝えいたしますが」
ふお、そこまでしてもらうのは申し訳ない。
「いえ、そのままで構いませんわ。明後日はどうかしら?」
「順番で言えば、明後日は和食になるかと思います」
「ありがとう」
そうか。
何やらローテーションで、和洋が入れ替わるんだ。よし。明後日でいいや。卵の賞味期限はまだ大丈夫だし。
知ってる?卵の賞味期限って、思いのほか長いんだよ?
いつもありがとうございます。
おかしいな……。嘉久上げの回を書いているつもりだったのに、結局落ちた……。




