第251話 お兄様も食べたいらしい
さて、邪魔者もいないので、泡立て開始。
シャカシャカ。
シャカシャカシャカシャカ。
リズミカルに、そーれ。
シャカシャカシャカ。
……。
腕が疲れた。
変なところに力が入ってるかな。
シャカシャカ。
あ、ちょっと腕が楽かも。
シャカシャカ。
そうして、出来上がった、ふわっふわの白身。えーっと、今回はマカロンを作るわけではないので、出来栄えが確認できないけれど……。うん、いいや。
何か少しだけ泡立てるときのコツが分かり始めた気がする。
で、このフワフワで何を作るのかと言えば……。一度作って見たかったんだー。
フライパンを用意して、蓋も忘れずに準備。
泡立てた白身に、泡が潰れないようにゆっくり黄身を混ぜる。
バターたっぷり、フライパンを熱して、卵投入!
蓋をして焼く。焦げないようにね。慎重にね。
あ、味をつけてない。塩をフリフリ。
もういいかな?
で、き、たーっ!
お皿に二つ折りにして盛り付け。
「璃々亜、それはモンサンミッシェルのオムレツかい?」
おお、流石兄。ご存じでしたか!
「あー、あれか。フランス旅行の時、璃々亜がどうしても食べたいと言ってたやつだろ?」
え?マジか!
本場の食べに行ったのか!璃々亜うらやましす!
私なんて、日本のモンサンミシェルのオムレツが食べられるお店にすら、行ったことがないというのに。
「ああそうだったな。結局食べられなくてずいぶん璃々亜は機嫌が悪かった」
兄が思い出してクスクスわらっている。
そりゃ、フランスまで行って食べたかったものが食べられなかったら、機嫌も悪くなるよ。
「さんざん怒って、寝ちゃったから祭りも楽しめなかったんだよな」
マジか!旅行が台無しじゃないか。っていうか、嘉久も笑うな。
「よく覚えてるな。お前4歳だったろ?」
え?嘉久4歳?じゃ、私も4歳?
いったいいつの話だ!
っていうか、そんな幼少時にフランス旅行とか!
しかも何気に、なんで家族旅行とかじゃなくて、嘉久もいるんだ?
謎だらけじゃないかっ!
「その璃々亜が、自分でモンサンミッシェルのオムレツを作れるようになるとは……」
兄が感動してジーンとしている。
いや、4歳児と比べれば、そりゃ色々できるようになるって!
「何だ璃々亜、10年以上もずっと食べられなかったことを悔やむくらい食べたかったら言えばいいのに。フランスまでは無理でも、日本にも何件かモンサンミッシェルのオムレツの店あるから、連れてってやったのに」
おい、誰が10年来の念願だって!
くいしんぼう嘉久と一緒にするな!
さ、試食試食。
もんぐ。
うわー、ふわっふわの食感。
すごい。
……いや、でも、美味しいかと聞かれれば……。
バターと塩で味がついてる普通のオムレツの味。食感がふわふわなだけで…。
どうせふわふわなら、ホットケーキとか甘いものの方が好きかも。ムースとか……。
はぁー、何だか、期待していただけに、がっかりです。
「うわーっ、璃々亜、食べたな!」
嘉久が素っ頓狂な声を上げる。
「ええ、それが何か?」
自分で作った物を自分で食べる、別に何にも問題ないよね?
はっ!まだ食事の時間じゃないのに、太るぞとかそういうこと言いたいのか?
「せっかく、勝ったのに……敦也兄に勝ったのに……」
がっくりとうなだれる嘉久。
あー、そういえば……なんかすごろくゲームで賭けてたね。
ソファには、嘉久を睨み付ける兄の姿がある。
嘉久に負けたのが、よほど悔しかったのか。
「出来栄えを確認するために味見は必要ですもの。今からまた御作りいたしますわ……」
どうせ、まだ卵白泡立てる練習するし。
「そうだ、お兄様、私の味見した物でよろしければ、お食べになりますか?」
随分落ち込んでいるように見てた兄に声をかけてみる。
んー、流石に口を付けたものを進めるのは失礼だろうか……。
兄にも、新しく作り直してもいいんだけど……。
思ったほどおいしくなかったので、食べてくれると嬉しいなぁー……って、流石にダメか……。
「いいよ、璃々亜!新しく作らなくっても、これでいい!」
嘉久が、私の手元の皿を持ち上げた。
あ、そう?どうぞどうぞ。お持ちください。
嘉久は左手に皿、右手にスプーンを持って、口をあーんと開け……。
って、立ったまま食べるんか!
座れ、とりあえず。と思っていたら、嘉久の手から皿もスプーンも消滅した。
いや違う。消滅したように見えるくらい早業で、兄が嘉久から取り上げた。
うんそうだよね。立ったまま食べるとかお行儀悪いから……って、兄よ!
嘉久から取り上げたスプーンをそのまま口に運ぼうとしてます。
それを、嘉久が阻止しようと……。
「お兄様も、嘉久様も、私以上にモンサンミッシェルのオムレツが食べたかったんですわね……」
もしかして、記憶にないけれど4歳の嘉久と6歳の兄も、モンサンミッシェルでオムレツを食べられなくて泣いたんじゃありません?
ふふふ。
仕方がない。
もう一つ作ってあげよう。




