第235話 宝物らしい
教室に入ったとたんに、クラスメートの視線が突き刺さった。
ふえ?な、何?
そんなに注目されるようなこと、何かした?
「璃々亜様、大変ですわ……」
皐月たんが、声を潜めて私に話しかけて来た。
「どうしたんですの?」
「先ほど、田中様に腕をつかまれ教室を出て行ったというのは本当ですの?」
こくんと頷く。
「噂になっていますわ……。二人の間に何があったのかと……」
う、噂?
さーっと、青ざめる。
も、も、もしかして……。
田中くんと芽維たんは幼馴染。
二人は仲良くしてる。
私が、芽維たんをいじめている。それを知った田中くんが、私を断罪する。
っていう、璃々亜悪役令嬢説な噂?
なんたること!
ちっとも悪役令嬢的活動をしていなくとも、悪役令嬢補正とやらで、悪役令嬢にされてしまうのか!
うおー!
誰かぁ、た、す、け、てー。
って、誰も助けてくれないし。
なんとかせねば。
芽維たんとはちゃんと仲良しだし、いじめたりしてないし、そ、それに……。
た、田中くんとだって、仲良くしてるもんっ。
って言ってもなぁ。あれだ。
悪役令嬢の言う「仲良くさせていただいておりますわ。ねぇ、芽維さん」とか言っても説得力ないんだよぅっ!
「白川とは、図書委員の打ち合わせをしただけだから!」
田中くんの声が教室に響いた。
おっと、そうです。間違いないです。
っていうか、事実を語ればそれで済んだんでした。何を言い訳しようと考えていたのか。
さて。完全に噂を払拭しておきましょう。
「ええ、田中様の言う通りですわ。私と田中様は図書委員として日々KHTで何ができるのか考えていますわ」
ちょいと話を盛ってみる。
ぶっちゃけなんも考えてないけどな。
「先ほども、田中様がよい案を思いついたと相談されたのですわ」
教室の中を見渡せば、なぁーんだと納得した顔が大半。本当か?っていう疑いの目が少しだけあるような気がしないでもない。
「白川、あの案は僕じゃなくて、白川が考えたようなものだろ?」
と、田中くんが、噂の否定とは別の方向で私の言葉に食いついた。
「いいえ、田中様が言わなければ、私は気が付きませんでしたわ」
謙虚だな。田中よ。
自分の手柄にしていいんだぞ?
っていうか、むしろ、私は目立ちたくないので、手柄はいりません。
二人の手柄の押し付け合いに発展しそうな雰囲気を、芽維たんの言葉が打ち消した。
「うわぁー、図書委員、頑張ってるんだねぇ。他の委員も、皆頑張ってるのかなぁ~。私も頑張らないと」
芽維たんの言葉に、クラスメイトが次々に目をそらした。
なんだそれは。
頑張ってないっていうことか?
いや、私も頑張ってないんだけど……。
つ、辛い。
頑張ってないのに、頑張っていると思われちゃうの、辛い。
小さくなって、席に座る。
プルプルとスマホがメールの受信を告げる。
何事もなかったかのように、平静を装ってスマホを取り出す。
弟からだ。
宝物っていうタイトルのメールを開くと、地球のガラスのストラップの写真。
ふふ。
宝物か。
「うわー、何、それ?すごくきれいね!」
ん?いつの間にか芽維たんの顔がそこにあった。
うお、スマホ画像見られた。
見る気はなかったけど、堂々と見すぎて見えちゃったんだろうなぁ。後ろの席だし。
今度からメールチェックはもうちょっと用心しないとだめだね。あうう。いつ、だれに見られるか分からないんだから。
すくいは、宝物の画像が、同人誌じゃなかったことだな。
あはは。
「これ、ガラスでできた地球のストラップですわ。綺麗ですわよね。宇宙と書いて、コスモ。コスモガラスって言うのですわ」
「へぇー、すっごく綺麗」
芽維たんが、目をキラッキラさせて画像を見てる。
スマホをネットに切り替えてコスモガラスで画像検索。
「いろいろな種類があるんだねぇ。どこで売ってるんだろう?」
同人誌即売会です。
ハンドメイド作家による一点ものです。
とは、言えるわけもなく……。あの後調べたんだけど、ちゃんと商品としても流通してるみたいで、同人誌即売会のサークルで売っていたのは、似たようなものを作っている人だったみたい。
趣味の作品だったからか、市販のものの4分の1くらいの値段だった。
それにしても、芽維たんもこういうの好きなんだね。
今度イベントで見かけたら、芽維たんへのプレゼント用に買っちゃおう。あ、皐月たんにも御揃いで買おうかな。
うふふ。
早く同人誌即売会にまた行きたいなー。行きたい理由がまた増えちゃった。
いつもありがとうございます。
もっと宝物なのは、マスクだけどな(笑)




