閑話 弟視点 前編
閑話なのに続きます。
興味がない。
いや、それは嘘だ。
興味がないんじゃない。怖い。
違う、嫌いなんだ。
僕は、女が嫌いだ。
……ああ、それも違う。僕はこの世の何もかもが好きじゃない。
画面の向こう、2次元が好きだ。
だから、現実の女は嫌いだ。怖いから嫌いだ。
だけど、はっきりと嫌いだと言えない自分も嫌いだ。
近づくなと言えない。
怖いから、口もききたくない。
いったい、いつから僕はこうなってしまったのか?
小学部のころにはすでに、こうだった気がする。
いつも、僕の周りには女の子の姿があった。
醜くののしりあい、時にはつかみあって喧嘩をする女の子の姿が。
「抜け駆けは許しませんわ!」
「彼にふさわしいのはわたくしですわ!」
「少しかわいいからっていい気にならないことね!」
醜い。
怖い。
嫌いだ。
画面の中の彼女たちは、僕に近づいてこない。
ただ、画面の向こうで微笑みかけてくれるだけだ。
癒しをくれる。
恐怖はもたらさない。
だから好きだ。
アニメや漫画やゲーム……僕は次第にのめりこんでいった。
「まぁ、見てくださいませ。あの方、オタクではありませんこと?」
「あら、本当ですわ。気持悪い」
「アニメとか見て喜んでいるのですよね?信じられませんわ」
「どこか精神がおかしいに違いありませんことよ」
「おかしいのは精神だけではなく、見た目もではありませんこと?」
「くすくす。失礼ですわよ。汚いとか言っては」
「そうですわ。オタクが不潔というのは単なるうわさですわよ?」
「噂かどうか確かめたのですか?近づいて臭いを嗅いでみてはいかがです?」
「嫌ですわ!死んでもオタクには近づきたくありませんわ!」
嫌いだ。
女なんて。
僕もオタクだとカミングアウトすれば、彼女たちは僕の元から去ってくれるだろうか?
だけど……。オタクだと知られてからいったい、どのような扱いを受けるのか……。それを考えると怖い。
心の中でオタクは爆ぜろとか思いながら、表面上はにこやかに僕にすり寄ってくるんじゃないか……。
僕に近づくために、オタクを卑下しながらも、オタクのふりをして近づいてくるんじゃないか……。
最悪だ。
そうだ。
誰も、僕なんて見てない。
僕の背後にある、家……それを見ているだけだ。
家でも、オタクである僕を家族は否定する。
小学生のころは「子供」だからこういうの好きなんだと認めてくれていた。
中学生になったら、いつまで子供の見るようなものばかり見ているんだと、いい加減にしろと言われるようになった。
高校生になった今では……、何度もやめろと言われた。恥ずかしい、家の面汚しだと……。
だがやめない僕に、親は条件を出した。絶対に他の人にはバレるな。
そして、そういう人間が集まる場所には近づくなと。
もし、そういう場所へ行ったと分かれば、二度と集まれないようにしてやる……と。
やると言ったら、きっと本当にそうする。
父がどういう場所を指して言っているのかは分からない。同人誌即売会を知っているとも思えない。
秋葉原のメイド喫茶などを想像して言っているだけかもしれない。
同人誌即売会、それも日本……いや、世界最大級のコミケは、同好の士の集まりだ。ボランティア主体での開催だ。企業をつぶすのとはわけが違う。
だが、父なら会場に手を回して使えなくすることくらいはするはずだ。
行ってはだめだ。
行ってはだめだ。
行ってはだめなんだ……。
気持ちを抑えれば抑えるほど、行きたい欲求は高まった。
見つからなければ大丈夫。
変装して行こう。
初めて行く同人誌即売会。
変装には、コスプレを選んだ。顔が見えないキャラクターのコスプレを。
NARUKOという作品の「弟」と呼ばれるキャラだ。
持っていてもさほど不振に思われない黒のジャージ上下。
顔が隠れる、マスクとメガネと長い前髪。
カツラだけは何のために持っているのか親に追及されると困るけれど、ほかは持っていてもさほど不審な物は1つもないはずだ。
ごらんいただきありがとうございます。
心が歪んでいっちゃうオタクな弟。
現実の女性が怖くなっても仕方がないよなぁ・・・。
次回は日曜更新。土曜は休みます。




