第210話 グルメ番長らしい
目の前には、真っ赤に色づいたあれがドーンとお皿に乗っています。
食べやすいように皮をむかれ、その皮に身がたっぷりとのっている……。
「伊勢海老か。今日の夕飯はずいぶん豪勢だな」
そう、伊勢海老が、一人一尾。お皿にどーん。
兄が豪勢だって言うくらいだから、いくら白川家でもこれは珍しいことらしい。
何だ?何かのお祝いか?
いただきます。
あー、伊勢海老だ。伊勢海老。
身を取り、口に運ぶ。
エビとはいえ、どちらかと言えば蟹に近い触感。ぐあっ。エビの凝縮された濃厚な味とか、もう凡庸な感想しか出てこないわ!
うんまっ、何これ!
エビでも蟹でもなくって、これって「伊勢海老」だわ!何かで代用などできないやつだ。
やんばいぃ。
うんまぁい。
「ずいぶん幸せそうに食べるな。俺の分も食うか?」
はい?
え?
今の台詞、誰の口から出た?
「ほら」
よ、よ、嘉久が、箸も付けずに、伊勢海老の乗った自分の皿を差し出した。
何ごと!
何があったというの?!
嘉久、おまえ、いいやつ。
おれ、仲間、なる!
やばい。
つい、チート主人公の御伴にうっかりなっちゃうモンスターみたいな気持ちになっちゃったわ!
私は、伊勢海老1尾で釣られるほど安いモンスターじゃないぞ!
「なんだ、嘉久、お前まだ伊勢海老が苦手なのか?」
え?
苦手?
こんなおいしい伊勢海老が嫌いだとぉ~?!
お前とは、徹底的に食の好みが合わないみたいだな、嘉久!
「ちっ、違うって、別に苦手じゃないよっ」
焦る嘉久。
「あれは幼稚園のころだったか?こんなのエビじゃないよぉって泣き出したじゃないか」
兄が思い出し笑いをしている。
ふふふ。
「あ、あれは……大きなエビのことだって敦也兄が説明してくれたから、それを想像してたからであって……」
うん、大きなエビを想像して伊勢海老出てきたら、確かになんか違うって思っても仕方がないな。
だけど、嘉久……そんなことで泣いちゃうような可愛いお子様だったのか。
ふふふっ。
「璃々亜も、笑うなよ。笑うなら、伊勢海老やらないぞ」
と、嘉久が皿をひっこめようとする。
うおー、なんだ、一度差し出したものをひっこめるな!
「だが、嘉久、苦手じゃないのになぜ自分で食べないんだ?」
「璃々亜、伊勢海老食べたいんだろ?」
そりゃ、一生のうちで何度も食べられるものじゃないし。
「朝食の時に、伊勢海老伊勢海老言っていたじゃないか」
え?
私が?
「ああ、確かに……それで、夕食が伊勢海老だったのか」
「高円寺家と取引のある伊勢の料亭から取り寄せてもらったんだ」
ぬあにっ?!
わざわざ、何でもない日の夕飯のために、取り寄せた……?
私が、伊勢海老を食べたがっていると思って?
嘉久……もしかして……おまえ……。
前々から、そうじゃないかと思っていたけど……。
グルメ番長だな!
美味しい物の探究者。おいしい物をよりおいしく食べることを研究し続ける……。それだけじゃない。
番長と言われる所以は、自分さえ美味しい物が食べられればよいというわけじゃないところだ。
周りの人たちにもおいしいものを食べて欲しい。そのための尽力を惜しまない。それが、グルメ番長……。
うおお、かっこいいじゃないか!
グルメ番長!
「何の裏があるんだ?嘉久?」
お兄様、失礼ですわよ!
番長は純粋においしいものを皆に食べてもらいたいだけですのにっ!
「ふふんっ。裏なんてないさ」
そうでしょう、そうでしょう。
「璃々亜から、もらうばかりじゃ悪いと思ったんだよ」
はい?
あげませんけど?
おいしい物を嘉久にあげたりしませんけど?
何の話?
「なんだ、嘉久……おまえ、もう1位を取ったつもりでいるのか?全国模試はそれほど甘くはないぞ?」
え?
全国模試1位?
それと、伊勢海老とどんなつながりが……。
「ははは。敦也兄こそ、すでに1位を取ったら璃々亜に何をプレゼントしてもらうのかリストでも作っているんじゃないのか?」
え?
なんで、私がプレゼントとかしないといけないの?
ごらんいただきありがとうございます。
嘉久、いいことしたと思ったら、だめじゃんっ!




